ネオニコチノイド
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歴史
天然物であるニコチン・硫酸ニコチンは、古くから殺虫剤として使われてきたものの、これらは人畜に対する毒性も高く、危険である。そこでこれらを元に毒性を低減すべく、ネオニコチノイドが開発された。
1979年にシェル株式会社で開発・発表されたニチアジンは、太陽光に対し不安定という欠点があったため、実用化されず改良が加えられた。
1980年代に日本特殊農薬株式会社(現:バイエルクロップサイエンス株式会社)がイミダクロプリドを開発し、1988年に日本で公的試験を開始し、1992年にネオニコチノイド系として世界で初めて農薬登録された。その後、研究が進むにつれて、本系統剤が多様な化合物群で構成されることが見い出され、1993年に、東京農業大学教授の山本出によって「ネオニコチノイド」と呼ぶ提案がなされた。以降「ネオニコチノイド系殺虫剤」の呼称が、世界で使われている。
2019年現在、殺虫剤抵抗性対策委員会(Insecticide Resistance Action Committee, IRAC)による作用機序・作用分類で、ネオニコチノイドに分類される7剤中6剤が、日本企業によって開発されたものである。
用途
ネオニコチノイド系殺虫剤は、各国において、ガーデニング用および農業用の殺虫剤、家庭用スプレー式殺虫剤、ペットなどのシラミ・ノミの駆除、ゴキブリ駆除、シロアリ駆除、住宅の化学建材[4]、木材防腐剤[28]など広範囲に使用されている。
日本における主要用途
ネオニコチノイド単体の農薬として販売される以外に、他の殺虫剤や農業用殺菌剤および殺ダニ剤に混ぜられている[4]。
- 農薬[29]
- 建材の防虫剤
- 例:床フローリング材の表面材接着層の接着剤混入処理剤[30]
日本での規制
希釈前の高濃度の薬剤(顆粒水和剤・乳剤)については、アセタミプリドとイミダクロプリドが、毒物及び劇物取締法の「医薬用外劇物」に指定されている。
各国の状況
EU
欧州連合(EU)では、ミツバチ大量失踪事件を受けて、被害拡大を防止するために原因究明に精力的に取り組む一方で、予防原則に基づき、その原因の1つであると考えられるネオニコチノイド系農薬に対する規制を実施する対策を講じている。
EU圏内では2013年12月よりネオニコチノイド系農薬のうちクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムの3種に対する使用規制が導入された。ただし、開花時期以外での散布、温室ハウス内での散布、ミツバチの来ない作物への使用、この3種以外のネオニコチノイド系殺虫剤の使用は禁止対象外である[31]。
フランス
フランスは、ネオニコチノイド系農薬の使用規制に最も熱心な国家である。1994年にイミダクロプリドによる種子処理(種子のコーティング)が導入された後に、ミツバチ大量死事件が発生していた。そこで1999年1月に、予防措置として、イミダクロプリドによるヒマワリ種子処理を全国的に一時停止し、原因究明調査に着手した。
そのような中で2002年に、ミツバチ全滅事件発生した。フランス農業省の委託を受けた毒性調査委員会は、2003年にイミダクロプリドの種子処理によるミツバチへの危険性を警告する報告書をまとめた。これを受けて、2004年に農業省は、イミダクロプリドを活性成分とするネオニコチノイド系殺虫剤ゴーシュの許可を取り消し、イミダクロプリドによるトウモロコシの種子処理も禁止した。そして2006年4月に、最高裁の判決を受け、ネオニコチノイド系農薬ゴーシュ(イミダクロプリド)を正式に使用禁止とした。
2016年7月にフランス国民議会は、ネオニコチノイド系農薬の使用禁止を盛り込んだ生物多様性法を可決した。2018年9月からネオニコチノイド剤は一部の例外を除き使用禁止され、2020年7月からは例外使用規定が廃止され、全面禁止された[32]。
オランダ
2000年に、イミダクロプリドを開放系栽培での使用を禁止した。
デンマーク
2000年、イミダクロプリドの販売を禁止した。
ドイツ
ネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンが広く市場に出回るようになると、ハチの大量死・大量失踪が発生したと、2006年に初めて報告された。翌2007年から2008年にかけて被害がさらに深刻化、2008年、ドイツ連邦消費者保護・安全局 (BVL) は、イミダクロプリドとクロチアニジンの認可を取り消し、ネオニコチノイド系農薬7種類の販売を禁止した。
イタリア
2008年に、農水省がイミダクロプリドやクロチアニジンによる種子コーティング処理を禁止した。
アメリカ合衆国
2015年に、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)はスルホキサフロル製剤の登録を取消し、販売を禁止した[33]。
日本
日本では、ネオニコチノイド系農薬のイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ジノテフラン、ニテンピラム、アセタミプリド及びチアクロプリドの7種が使用可能である[35]。
北海道を中心とする北日本で、ミツバチ大量死が多発しており、水田でカメムシ対策に使われているネオニコチノイド系殺虫剤が原因との結論を、畜産草地研究所が出している[36]。
東京都が行っている国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(2016年)では殺虫剤について、有機リン系・有機塩素系の検出が減少、ネオニコチノイド系が増加しており、特にジノテフランの頻度が高いと報告された[37]。またネオニコチノイド系農薬は、日本で市販されている緑茶の葉やペットボトル入りの緑茶からは全て、野菜の60%から検出されている[17]。長野県の児童の尿を調査した結果、ほぼ全員から検出されたが、これは茶などから取り込んだためと推測されている[17]。なお日本内分泌撹乱化学物質学会では理事会ではお茶が出されなくなったという[17]。日本の基準ではEUの基準を満たさないため、輸出されている茶などは無農薬品が中心である[17]。農林水産省では基準が日本よりも厳しい国へ輸出する農作物の病害虫防除マニュアルを公表している[38]。
ミツバチによる受粉が、結実に必要なリンゴやウメの果樹栽培を行っている地域を中心に、一部の農業協同組合(JA)や地方公共団体には、開花期のネオニコチノイド系殺虫剤散布の自粛を農家に呼びかけている地域も出てきた。なお日本では、欧州食品安全機関でミツバチに影響があると公表された「ネオニコチノイド系農薬を種子表面に付着させる」コーティング処理は行っていない[35]。
2015年5月19日に厚生労働省は、ネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和した。例を挙げれば、ほうれんそうでは従来の13倍に緩和した[21][22]。
注釈
- ^ ネオニコチノイドの葉面散布では2週間から1ヶ月程度、粒剤処理や灌注処理では3ヶ月程度の効果が持続する。これに対して、有機リン剤は3日程度である。
- ^ アキアカネを含むトンボの幼虫は、水田などで水中生活をする。詳しくは「ヤゴ」を参照。
出典
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