オオカミ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/21 00:18 UTC 版)
化石記録
オオカミに限らず古代の脊椎動物の化石出土はまれであり、断片的な情報や形態学的な分析から類推することが常であるため、研究者間でも見解が異なることがままある[6]。およそ6500万年前に起こった白亜紀と古第三紀の間の大量絶滅は恐竜種の絶滅と肉食哺乳類の出現をもたらした[7]:p.8。主として昆虫を捕食するアードウルフのような種を除き、これらの種は肉を裂き骨を砕くためのエナメル質の裂肉歯を持ち、長い期間をかけて環境に適合するよう進化してきた。イヌ科とネコ科の肉食動物の祖先はおよそ恐竜が滅んだ直後に誕生し、別々の進化を遂げてきたが、イヌ科の最初の仲間が登場するのはおよそ4000万年前のことである[7]:p.16。オオカミは150万年前ごろに、その初期の小型のイヌ科動物の集団から発生したと考えられており[8]:p.241、形態学的、遺伝子的、化石標本上の類推からもコヨーテと同じ祖先から進化したことを示唆している[8]:p.239。ジャッカルをはじめとするイヌ属の祖先とはこれよりも前に分岐していたと考えられている[8]:p.240。
絶滅地域への再導入
オオカミの住処や獲物である草食動物を人間が奪ったため、オオカミは人間に駆除される危険を冒してまで家畜を襲うようになった。そのため家畜を襲う害獣であるとして人間がオオカミを駆逐し、絶滅させてしまった地域がある。そうした地域のなかにはオオカミの絶滅の後、天敵を失った大型の草食動物が異常に増加し、地域の植物が食べ尽くされたことによって森林が消滅し、逆に大量の草食動物が餓死し既存の生態系を攪乱せしめたという例がある。こうした撹乱された生態系を以前のものに戻す対策として、アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園では、絶滅したオオカミが再導入されている。しかし、再導入後に当該地域に生息する大型草食獣であるエルクが減少していたのは、オオカミによる捕食よりも人間の捕獲や気象条件で説明できることが示されている[9]。また、再導入に伴うアスペンの回復も偏りのある調査設計によって得られた結果であることが示されており[10]、再導入が生態系の回復に与える影響は明確でないことが知られている。
日本
日本固有のオオカミのうち、本州・四国・九州に分布していたものは、ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax または Canis hodophilax)と呼ばれる。オオカミの中では小型で(中型の日本犬ぐらい)、毛色は白茶けており、夏と冬では毛色が変わったとされる。
ニホンオオカミは1905年(明治38年)に奈良県東吉野村鷲家口(わしかぐち)にて捕獲された若いオスの個体を最後に目撃例がなく、絶滅したと見られる。「1910年(明治43年)8月に福井城址にあった農業試験場(松平農試場)で捕獲されたイヌ科動物がニホンオオカミであった」との論文が発表された[11][12]が、この個体は標本が現存していない(福井空襲により焼失。写真現存)ため、最後の例と認定するには学術的には不確実である[12]。
ニホンオオカミの標本は、頭骨はある程度残っているが、剥製や全身骨格の標本が極めて少なく、日本国内では数点しか知られていない。日本国外では、鷲家口で捕獲された個体の仮剥製と頭骨が、ロンドン自然史博物館に保管されている[13]。また、シーボルトが長崎の出島で飼育していたニホンオオカミの剥製1体が、オランダ国立自然史博物館に保存されている。
日本では関東・中部地方において秩父の三峯神社や奥多摩の武蔵御嶽神社でオオカミを眷属として祀っており、山間部を中心とした狼信仰が存在する[注 2]。オオカミを「大神」と当て字で表記していた地域も多い。日本各地に残る送り犬の伝承はニホンオオカミの習性を人間が都合の良く解釈したという説がある。
眷属としてのオオカミのご利益は山間部においては五穀豊穣や獣害よけ、都市部においては火難・盗賊よけなどで、19世紀以降には憑き物落としの霊験も出現する。眷属信仰は江戸時代中期に成立し、幕末には1858年(安政5年)にコレラが大流行し、コレラは外国人により持ち込まれた悪病であると考えられ、憑き物落としの霊験を求め眷属信仰は興隆した。そのため憑き物落としの呪具として用いられる狼遺骸の需要が高まり、また同時期に流行した狂犬病やジステンパーの拡大によって狼の獣害も発生し、明治以降、家畜を襲う害獣として懸賞金まで懸けられた徹底的な駆除などの複合的な原因によって絶滅したと思われている。
エゾオオカミ
一方、北海道および樺太・千島に生息した亜種は、エゾオオカミ (Canis lupus hattai) と呼ばれている。ニホンオオカミよりも大型で(シェパードほど)、褐色の毛色だったとされている。アイヌではエゾオオカミを「狩りをする神(オンルプシカムイ)」「ウォーと吠える神(ウォセカムイ)」など地域によって様々な呼び名があるが、雅語としての「大きな口の神(ホロケウカムイ)」は北海道全域で通じた。伝承では英雄を助ける、主人公を騙して夫にしようとする、いたずら好きなど様々な性格で語られるが、カムイのオオカミは白い毛を持つとされる[14]。明治以降、入植者により毛皮や肉目的の狩猟で獲物のエゾシカが一時激減し、入植者が連れてきた牛馬などの家畜を襲って害獣とされ、懸賞金まで懸けられた徹底的な駆除により数が激減し、ジステンパーなどの飼い犬の病気の影響や1879年(明治12年)の大雪によるエゾシカ大量死が重なった結果、1900年(明治33年)頃に絶滅したと見られる。
更新世オオカミ
シベリアに生息していた大型の亜種で、日本の本州でも化石が見つかっている。ニホンオオカミよりも古い時代に日本へ渡った。
注釈
出典
- ^ Boitani, L., Phillips, M. & Jhala, Y. 2018. Canis lupus (errata version published in 2020). The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T3746A163508960. doi:10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T3746A163508960.en. Downloaded on 10 April 2020.
- ^ 今泉忠明『絶滅野生動物事典』(KADOKAWA<角川ソフィア文庫>、2020年)ISBN 978-4-04-400527-6)p.85
- ^ W. Chris Wozencraft: Wolf. In: Andrew T. Smith, Yan Xie: A Guide to the Mammals of China. Princeton University Press, Princeton NJ 2008, ISBN 978-0-691-09984-2, S. 416–418.
- ^ 「海辺のオオカミ」『ナショナルジオグラフィック日本版』2015年10月号
- ^ 今泉忠明『野生イヌの百科』(第2版)データハウス〈動物百科〉、2007年、15頁。ISBN 9784887189157。
- ^ Sardella, Raffaele; Bertè, Davide; Iurino, Dawid Adam; Cherin, Marco; Tagliacozzo, Antonio (2014). “The wolf from Grotta Romanelli (Apulia, Italy) and its implications in the evolutionary history of Canis lupus in the Late Pleistocene of Southern Italy”. Quaternary International 328–329: 179–195. Bibcode: 2014QuInt.328..179S. doi:10.1016/j.quaint.2013.11.016.
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- ^ 緑黄色社会、新曲「Mela!」が玉城ティナ出演"パルティ カラーリングミルク"CM曲に決定&先行配信スタート。クリエイター8名によるMVも本日4/13プレミア公開 Skream! 劇ロックエンタテインメント 2020年4月13日
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- ^ 東京都古書籍商業協同組合『プチフラワー 昭和57年9月号 八百比丘尼/山岸凉子 w / 古書 森羅 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」』 。
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