非球面レンズとは? わかりやすく解説

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ひきゅうめん‐レンズ〔ヒキウメン‐〕【非球面レンズ】

読み方:ひきゅうめんれんず

球面ではない曲面を含むレンズ放物面楕円面双曲面といった二次曲面や、より高次多項式表される四次曲面などを用いる。従来球面レンズ欠点だった球面収差生じない精密加工が困難で製造コスト高かったが、ガラスモールド技術により大量生産が可能となったアスフェリカルレンズ


非球面レンズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/05 01:32 UTC 版)

非球面レンズ(ひきゅうめんレンズ、Aspheric lens )は、平面でも球面でもない曲面を屈折面に含むレンズである[1]。円筒面、トーリック面、対称非球面、非対称非球面等が使用される[1]

概要

球面レンズに比べて、1つあるいはいくつかの収差を小さくすることができる[2]ような、球面より理想的な曲面を採用する。写真レンズでは、主に、大口径レンズにおける球面収差[1]と、超広角レンズ[1]やズームレンズ[3]における歪曲収差の補正に大きな効果がある。また、写真レンズ以外にも様々な光学機器に採用されている[注釈 1]

一般に、ほとんどの非球面レンズでその中心部では球面に近く、周辺ほど球面から外れるわけであるから、その働きは周辺部ほど効果が大きく、複数のレンズから成る光学系では光束が広がる部分で効果が大きい。従って、写真レンズにおける非球面レンズの効果は、開放絞りに近い時ほど大きい[2]。絞り込んだ場合には球面レンズのみで製作されたレンズの方が性能が高くなる傾向にあるものの、非球面だからといって最小絞りにしても目立って悪くなるようなことはなく、普通撮影に使用しても問題はない[2]

なお、眼鏡での応用では、視界の歪みが少なく、同じ度数で比較すると薄く設計できる利点がある。しかし、そのぶん高価格となるため、あくまでオプションとして扱う販売手法が多い。

前史

色収差を抑える

レンズを球面のみで構成すると様々な収差が発生するため、像がぼやけたり、像面が湾曲したりといった欠点となる。これを抑えるために、たとえば色収差を抑えるには相補的な形状の分散が異なるレンズを組み合わせるなどの工夫がなされてきた[2]

しかし、レンズ枚数が増加すれば、それに伴う重量化・高価格化が避けられないため、おのずと実用上の限界があった。

研削非球面

キヤノン EF 85mm F1.2L USM
大口径研削非球面レンズを使用した写真用レンズ

非球面を用いれば、複数枚のレンズを組み合わせた場合と同等か、それ以上の大きな補正効果が得られる[2]ことは17世紀にはデカルト、コンスタンティン・ホイヘンス[要出典]らの研究によって明らかとなっていた[4]ものの、理論的に求められた曲線を正確に再現するための技術的・機械的な限界から大量生産は長らくなされなかった。1台ずつ生産される天体望遠鏡の分野では、非球面の補正板を採用し1931年に発明されたシュミット式望遠鏡など戦前からの実用化例があるが、設計者のベルンハルト・シュミットは非球面の研磨方法を生涯公表しなかったという。

20世紀後半になって加工技術が発展したことによりレンズ面の非球面加工が可能になり、一般的なガラス素材による非球面レンズが生産可能となった。一般撮影用レンズの初の非球面レンズ採用はエルンスト・ライツ(現ライカ)のウォルター・マンドラー設計で1966年フォトキナで発表され発売されたノクチルックス50ミリF1.2とされる[5]。国産では1971年のキヤノンFD55ミリF1.2ALが初で1977年のノクトニッコール58ミリF1.2が続く。当初は研削加工により製造されていて、この方法で製造されたものを研削式非球面レンズという。当初はレンズ研磨職人の手作業、後には機械旋盤でも加工されるようになった[5]ものの、大量生産に向かず非常に高価なものであった。

新製法

近年では、あらかじめ非球面形状に超精密旋盤で加工した型の中に、軟化させたガラスをプレスして製造するモールドレンズや、球面レンズ上に紫外線硬化樹脂などを重ねて複雑な複合レンズ様に成型した複合素材レンズのような、低コストの製品が製造可能となり[3]、廉価なカメラレンズや眼鏡のレンズ、光ディスクのピックアップなど、幅広く採用されるようになった[6]

なお、ガラスモールド非球面レンズについては、硝材の熱膨張・収縮が問題となり、あまりにも肉厚で大口径のレンズは、長らく成形困難とされていた。 しかし、トキナー1997年HOYAと共同開発したATX20-35mmF2.8では、アタッチメントφ77mmもある大口径レンズの最前玉にガラスモールドを採用し、大口径化に貢献した。 また、現在でも試作品などのための少量生産では型を使わず研削・研磨によって非球面とする創生法も用いられ[注釈 2]、研究が重ねられている[6]

注釈

  1. ^ むしろ、例えばレーザー用途で、特定の波長における球面収差を、1枚のレンズでゼロにするといった、特化したレンズを作れるということから、写真レンズ以外において応用が大きい。
  2. ^ 創生法では、曲率の異なる半径方向には研磨具を動かすことができないため、円周方向に生じる痕を除去するのに工夫が求められる。

出典

  1. ^ a b c d 『新・ニコンの世界第9版』p.261。
  2. ^ a b c d e 『カメラ・レンズ白書1980年版1交換レンズ読本』p.140-142。
  3. ^ a b 『クラシックカメラ専科No.23、名レンズを探せ!トプコン35mmレンズシャッター一眼レフの系譜』p.12。
  4. ^ 吉田正太郎『レンズとプリズム』(第1版)地人書館、東京都新宿区中町15番地、1985年6月10日。 
  5. ^ a b 『クラシックカメラ専科No.50、ライカブック'99ライカのメカニズム』p.132-133。
  6. ^ a b 永田信一『図解 レンズが分かる本』(初版)日本実業出版社、東京都文京区本郷3-2-12、2002年11月20日、pp. 64-65頁。ISBN 978-4-534-03491-5 

参考文献

  • カメラ毎日別冊『カメラ・レンズ白書1980年版1交換レンズ読本』毎日新聞社
  • 日本光学工業『新・ニコンの世界第9版』 1983年2月1日発行
  • 『クラシックカメラ専科No.23、名レンズを探せ!トプコン35mmレンズシャッター一眼レフの系譜』朝日ソノラマ
  • 『クラシックカメラ専科No.50、ライカブック'99ライカのメカニズム』朝日ソノラマ
  • 吉田正太郎 『レンズとプリズム』第1版 地人書館、1985年6月10日。

関連項目

リンク


非球面レンズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 01:47 UTC 版)

写真レンズ」の記事における「非球面レンズ」の解説

通常のレンズではレンズ表面曲率一定球面レンズ使用するが、球面レンズには平行光線を完全な形で一点収束させられないという欠点がある。この欠点解消するため曲率連続的に変化させてレンズ形状を非球面状態にしたレンズが非球面レンズで、これを用いることで大口レンズ球面収差補正広角レンズ歪曲収差補正ズームレンズ小型化可能になる詳細は「非球面レンズ」を参照

※この「非球面レンズ」の解説は、「写真レンズ」の解説の一部です。
「非球面レンズ」を含む「写真レンズ」の記事については、「写真レンズ」の概要を参照ください。

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