Qi (ワイヤレス給電)とは? わかりやすく解説

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Qi (ワイヤレス給電)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/24 17:13 UTC 版)

Qi
ステータス Active
初版 2008年 (17年前) (2008)
最新版 Qi2.2.1
2025年7月
組織 ワイヤレス・パワー・コンソーシアム
ドメイン インダクティブ充電
ウェブサイト www.wirelesspowerconsortium.com

Qi(チー、発音 [] CHEE;[1]」, 簡体字中国語: ; 繁体字中国語: , に由来)は、インダクティブ充電(非接触充電)を使用したワイヤレス電力伝送のインターフェース規格[2]。この規格により、スマートフォンなどの互換性のあるデバイスは、Qi充電パッドに置くとバッテリーを充電できるようになり、最大4 cmの距離でも効果的に充電できる。

2023年にはAppleのMagSafe技術をベースとした次世代規格のQi2が発表された[3]。さらに2025年7月に発表されたQi2 25W(ver.2.2.1)では、25W充電に対応する。これにより、バッテリー残量0%から50%までの充電時間が30分程度に短縮される[4][5]

概要

初期のQi(v 1.0)は、古くから実用化されていた「電磁誘導方式」を元にしている。これは、2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと発生する磁束を媒介して、隣接したもう片方に起電力が発生する電磁誘導の原理を用いたものである。この方式によるワイヤレス給電システムは過去に幾つか実用化されていたが、独自開発のものが多く、異企業間での機器の相互利用が出来ない状態が続いていた[2]

そのような欠点を解消するため、2008年にWPCが立ち上げられ、企業間での相互利用を可能とする国際標準規格を策定する事となり、2010年7月に『最大5Wの低電力向け』Qi規格(Volume I Low Power)の策定を完了した[2][6]。使用する周波数帯は110kHzから205kHzまでの間と定められている。これはAirFuel AllianceのPMA規格(100kHzから200kHz)とほぼ一緒であり、受電側から送電側へのデータ通信はハードウエアレベルで互換性があるために両方を統合することも可能である[7]

WPCではQi規格(v 1.1)からQ値の低い磁界共振を一部取り入れて受電側だけを共振させるという広義の電磁誘導であり、同時に広義の磁界共振ともいえる構成となっている[8]。その後、v 1.21では受電側の共振は断念され、送電側のみが共振する構成となっている。

さらにWPCでは中電力向けQi規格(Volume II Middle Power[2])の検討が進められている[9]。この中電力向けQi規格v 1.2ではまず15Wでの充電に対応し、将来的に200Wまで供給する事が可能となる[10]。そして2015年6月23日に15W規格書が策定された[11]

当初(2011年頃)、NTTドコモを中心とした日本企業が本規格を推進していたが、前述の充電の遅さに加え、当時はワイヤレス給電規格が複数存在しており、スマートフォン業界がどの方式を採用するかの方向性が定まっていなかったこと、更にQiを推進していた一部のスマートフォンメーカー(パナソニック モバイルコミュニケーションズNECカシオモバイルコミュニケーションズなど)がスマートフォンの製造・販売を終了し、後継のスマートフォンが出てこなかったこともあり、一時期劣勢を強いられていたこともあった[12]

その後、2010年代後半に大容量電力送信の規格書が策定され、急速充電の問題が解消されたことやスマートフォン市場で高いシェアを占めているサムスン電子Samsung Galaxyシリーズ)とAppleiPhoneシリーズ)が本規格を採用したこともあり、対応機器が一気に増加した[12][13]

Qi2

既存のQi規格はホストとクライアントのコイルの中心が一致したときにのみ最大の効率が得られ、少しでもズレると効率が落ちる問題があった。この問題を解消すべく、2023年1月、WPCはAppleと協力し、MagSafeの技術を積極的に取り入れたQi2を発表した。[14]

Qi2ではコイルを囲むように磁石が配置されており、デバイスを近づけると磁力によりコイルの中心同士が一致する仕組みとなっている。また、この技術によりコイルのズレにより発生する可能性が指摘されている高出力での発熱の問題が解消される見通しで、WPCはQi2を2024年中旬までに15Wを超える出力に対応させると約束している。[15]

2023年9月12日、初めてQi2に公式に対応したデバイスとしてiPhone 15/15 Plus及びiPhone 15 Pro/Pro Maxが発表された[16]。また、iPhone 13シリーズ及びiPhone 14シリーズもiOS 17.2以降にアップデートすることでQi2に対応する。

Qi2 25W

2025年7月、より高速な充電を可能とする新規格「Qi2 25W」が発表された[5]。従来のQi2(15W)よりも、ほぼ70%多い電力供給を実現する。

2025年8月21日、Google Pixel 10シリーズが公式サイト上などで公開されPixel10シリーズ全機種がQi2規格に準拠している「Google Pixelsnap」を公開し、主要Androidスマートフォンで初のQi2対応デバイスとなった。[17] また、Pixel 10 Pro XLではQi2.2に対応し最大25Wでの充電が可能となる。[18]

通信

充電台(送電側)と携帯機器(受電側)との間では受電側から送電側への単方向通信が行われる。パッシブRFIDタグと同様の後方散乱変調を利用しており、受電側での負荷を変動させることによる2値ASKとなっている。通信速度は2kbpsで、1オクテットにつきスタートビット(1)、パリティビット(ODD)、ストップビット(0)それぞれ1ビットを伴う

受電側は電力を受け取っている限り定期的にパケットを送り返すことになっており、これにより送電側は充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断できる。通信の内容は受電量の必要量に対する差分、送電停止要求、受電中の電力、携帯機器の充電率が主であるが、充電開始時には受電側の識別情報が送られ、機器固有の情報が送られる場合もある。

策定団体

ワイヤレスパワーコンソーシアムは2008年12月17日設立で、事務局はアメリカ合衆国ワシントンDCに置かれている。2025年7月時点で300社以上が会員となっている[19]

正会員(Regular membership[20]
仕様策定をはじめとするコンソーシアム運営全般に責任を負う企業。かつては業界ごとに定数があり、最大25社までとされていたが、現在は約100社が正会員となっている
採用会員(Adopter membership
正会員に対して・取締役会の選挙における議決権、・WPC仕様の作業草案へのアクセスが制限される。

取締役会

取締役会(Board of Directors)は、主要な会員企業の代表によって構成される。2025年時点の理事会メンバーには以下が含まれる[21]

沿革

  • 2008年12月17日 - 充電式電池を開発している企業等によりWPC設立。設立時のメンバーは、ConvenientPower、Fulton Innovation、LogitechNational SemiconductorRoyal Philips Electronics三洋電機、Shenzhen Sang Fei Consumer Communications、Texas Instrumentsの8社[22]
  • 2009年8月17日 - 低電力用バージョン0.95規格書の策定と名称(Qi)およびロゴの公表。
  • 2010年7月23日 - Qiバージョン1.0規格書の策定、公開[2][6]
  • 2012年4月21日 - 低電力用Qiバージョン1.1規格書の公開。受電側だけを共振させる一部磁界共振を採用することにより送電ユニットの設計自由度が大幅に上がり、異物検出能が改善された。
  • 2015年6月23日 - 中電力用Qiバージョン1.2規格書の策定[11]
  • 2021年1月 - Qiバージョン1.3規格書の策定(規格書の全面改版により15分冊となった)(最新版は1.3.1)。
  • 2023年1月 - Appleの「MagSafe」をベースとした後継規格「Qi2」を発表[23]

対応機種(メーカー別)

  • AQUOS R3
  • AQUOS R7
  • AQUOS R8 pro
  • AQUOS R9 pro
  • Xiaomi 14 Ultra
  • Xiaomi 14T Pro
  • Xiaomi 15
  • Xiaomi 15 Ultra

対応機種(キャリア別)

au

(KDDI沖縄セルラー電話連合)
  • Galaxy S8 SCV36
  • Galaxy S8+ SCV35
  • Galaxy S7 edge SCV33
  • Galaxy S6 edge SCV31
  • TORQUE G02 (KYV35)
  • TORQUE G01 (KYY24)
  • URBANO L01 (KYY21) - 利用するにはバッテリーパック、および裏フタ(背面パネル)をそれぞれQi対応のものに交換が必要。
  • URBANO L02 (KYY22) - 利用するにはバッテリーパックをQi対応のもの(上記のURBANO L01用と共通)に交換が必要。
  • URBANO L03 (KYY23) - 通常(Qi非対応)モデルとQi対応モデルが混在しており、利用可能なのは(本体色が)パープルブラックのQi対応モデルのみとなっている。
  • Xperia XZ2 SOV37
  • Xperia XZ2 Premium SOV38
  • Xperia XZ3 SOV39
  • Xperia 5 V (15W 高速充電対応)
  • Xperia 1 VI (15W 高速充電対応)

UQ WiMAX

  • Huawei モバイルルーター HWD14 Wi-Fi WALKER WiMAX2+
イー・モバイル (イー・アクセス)
Y!mobileソフトバンクモバイルウィルコム沖縄

対応機種(その他の機器)

本体ではなく、充電ケースにて対応が分かれる。

    • ワイヤレス充電ケース
      • AirPods (第1世代)
      • AirPods (第2世代)
    • AirPods Pro 充電ケース
    • AirPods Pro MagSafe 充電ケース
    • AirPods (第3世代) MagSafe
      • AirPods (第3世代)
    • AirPods (第4世代) MagSafe
      • AirPods (第4世代)
  • ENERLINKシリーズ
  • エアボルテージシリーズ
  • チャージパッドシリーズ
  • DIGA ブルーレイレコーダー DMR-BZT920/830
  • DIGA フォトレコーダー DMR-HRT300
  • デジタルビデオカメラ HC-V720M (同梱バッテリーパック)
  • デジタルビデオカメラ HC-W850M (同梱バッテリーパック)
  • USBモバイルバッテリ QE-PL101/102/103/201/202/203/301/302
  • エボルタ充電ケース QE-CV201 (単3/単4NiMH専用)
  • PENTAX WG-3 GPS

TDK Life on Record(イメーション

  • ワイヤレススピーカー Q35

コニカミノルタテクノロジーセンター

  • Symfos LED-TASKLIGHT

日立マクセル

  • WP-SL10A iPhone4用ワイヤレス充電対応ケース
  • MXQI-CVA20 iPhone5用ワイヤレス充電対応ケース
  • WP-EMCVA10 iPhone4 / 4S用ワイヤレス充電対応ケース

デンソー

  • WP-EMCVA10 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース

サンワサプライ

  • WLC-IPH11 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース

対応機種(自動車)

BMW

脚注

出典

  1. ^ Wireless Power Consortium”. 2022年5月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e EE Times Japan (2011年2月11日). “「Qi」規格に集うワイヤレス給電、5W以下のモバイルから普及へ”. 2011年7月5日閲覧。
  3. ^ 株式会社インプレス (2023年9月29日). “[ケータイ用語の基礎知識第1004回:iPhone 15がサポートするワイヤレス充電規格「Qi2」って何?]”. ケータイ Watch. 2025年8月24日閲覧。
  4. ^ ライフハッカー・ジャパン編集部 (2025年7月20日). “iPhone 16も対応! 25Wの「Qi2.2」でワイヤレス充電が爆速になる”. ライフハッカー・ジャパン. 2025年8月24日閲覧。
  5. ^ a b iPhoneの無線充電が高速化、新規格「Qi2 25W」登場--主要Androidスマホも対応へ”. CNET Japan (2025年7月25日). 2025年8月24日閲覧。
  6. ^ a b ITmedia (2010年12月2日). “2015年には充電の概念が変わる――ワイヤレス充電規格「Qi」の展望と課題”. 2011年7月5日閲覧。
  7. ^ IDTのワイヤレス給電レシーバIC デュアルモード (Qi + AirFuel Inductive)ソリューション
  8. ^ “WPCがワイヤレス給電の規格を改定、「磁界共鳴方式」を初採用へ”. 日経クロステック. (2012年4月23日). https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20120423/214450/ 
  9. ^ Extention to medium power” (2011年3月23日). 2011年7月5日閲覧。
  10. ^ https://www.wirelesspowerconsortium.com/about/about-wpc/
  11. ^ a b Wpc Increases Power,Improves User Experience With New Qi Wireless Power Standard Specification” (PDF) (2015年6月23日). 2015年8月11日閲覧。
  12. ^ a b 佐野正弘 (2019年1月21日). “知って納得、ケータイ業界の"なぜ"(30) 一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由”. マイナビニュース. 2020年12月19日閲覧。
  13. ^ ついにiPhoneが対応した「チーのワイヤレス充電」ってなんだ?”. ITmedia NEWS (2017年10月18日). 2020年12月19日閲覧。
  14. ^ New Qi2 Standard for Wireless Devices Ensures Enhanced Consumer Convenience and Efficiency” (PDF) (英語). Wireless Power Consortium (WPC). 2023年9月12日閲覧。
  15. ^ SCHARON HARDING. “First Qi2 chargers look to expand MagSafe-like wireless charging beyond Apple” (英語). ars TECHNICA. 2023年9月12日閲覧。 “The WPC also promises to update the Qi2 standard to support charging beyond 15 W, with a goal of mid-2024, a WPC rep told Android Authority in January.”
  16. ^ The new iPhone 15 lineup supports both MagSafe and Qi2 wireless charging” (英語). 2023年9月14日閲覧。
  17. ^ https://mobilelaby.com/blog-entry-google-announces-pixelsnap.html
  18. ^ https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/2039953.html
  19. ^ Knowledge base” (英語). Wireless Power Consortium. 2025年8月24日閲覧。
  20. ^ HOW TO JOIN THE WPC”. 2022年6月22日閲覧。
  21. ^ Leadership” (英語). Wireless Power Consortium. 2025年8月24日閲覧。
  22. ^ WIRELESS POWER CONSORTIUM SELECTS CLOSE-RANGE MAGNETIC INDUCTION TECHNOLOGY FOR STANDARD AND WELCOMES OLYMPUS AS NEW MEMBER” (2009年1月20日). 2013年12月1日閲覧。
  23. ^ 佐藤信彦 (2023年1月5日). “次世代ワイヤレス充電規格「Qi2」、アップルの「MagSafe」ベースに--対応デバイスは年内登場”. CNET Japan. 2023年1月8日閲覧。
  24. ^ a b c d 「Qi2」って何ですか? - いまさら聞けないiPhoneのなぜ”. マイナビニュース (2023年12月15日). 2023年12月17日閲覧。
  25. ^ a b iPhone 16とiPhone 16 Plus”. Apple(日本). 2025年2月3日閲覧。
  26. ^ ワイヤレス携帯電話充電器”. ボルボ (2019年11月13日). 2019年12月27日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク




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