額装と銘
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/18 04:55 UTC 版)
初期フランドル派を専門とする美術史家エリザベト・ダネンスは、『教会の聖母子』のオリジナルの額装に見られる上部が丸まった形状が、フーベルト・ファン・エイクが制作を開始し、その死後に弟ヤン・ファン・エイクが作業を引き継いで完成させた『ヘントの祭壇画』を想起させるとしている。1851年の記録から『教会の聖母子』のオリジナルの額装に刻まれていた銘が伝わっている。詩歌の形式で記されていたこの銘は、額装最下部のフレームから記述が始まり、両横のフレームを経て最上部のフレームで終わっている。最下部のフレームには「FLOS FLORIOCOLORUM APPELLARIS」、両横と最上部のフレームには「MATTER HEC EST FILLIA PATER EST NATUS QUIS AUDIVIT TALIA DEUS HOMO NATUS ETCET」という文章が記されていた。日本語訳すると「母は娘。その父は天性。かつてこんなことはなかったであろう。神が人を創り給いた」となる。 マリアの衣服の裾にはラテン語の文言が記されており、オリジナルの額装に刻まれていた銘と関連しあっている。さらに、ヤン・ファン・エイクが1436年ごろに描いた『ファン・デル・パーレの聖母子』の聖母マリアのローブに刺繍されている文言とも共通性がある。『ファン・デル・パーレの聖母子』の文言は『知恵の書』(7:29) から引用された「EST ENIM HAEC SPECIOSIOR SOLE ET SUPER OMNEM STELLARUM DISPOSITIONEM. LUCI CONPARATA INVENITUR PRIOR」で、「知恵は太陽よりも美しく、すべての星座にまさり、光よりもはるかに輝かしい」という意味である。また、ラテン語で書かれた「太陽の光が窓を通り抜けても/決して汚されることはない/彼女は聖処女だった/そして今でも聖処女のままである」という中世の賛美歌の一節を絵画化した作品だという説もある。 これらの銘や文言が、描かれている彫像やマリアの描写に生命を吹き込んでいると見なす美術史家たちがいる。一方でクレイグ・ハービソン (en:Craig Harbison) らのように、当時のディプティクは純粋に個人的な祈祷用に制作されたものであり、記されている銘や文言は決まり文句で、祈祷者に心の安寧をもたらす役割以上の意味はないと主張する美術史家もいる。さらにハービソンは、ヤン・ファン・エイクが個人からの依頼で制作した作品には非常に多くの宗教的な文言が記されていることを指摘している。これらの文言はプレイヤー・タブレットや祭壇画と同じく、祈祷者の心を癒す役割があるとし、このような祭壇画の好例としてロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵する初期フランドル派の三連祭壇画『聖母子』(en:Virgin and Child (after van der Goes?)) を挙げている。
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