非剛体分子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/17 21:29 UTC 版)
上で解説した対称群は、単一の平行構造に関して小さな揺れしか経験せず、全ての対称操作が単純な幾何操作に対応している「剛体」分子を記述するために有用である。しかしながら、ロンゲ=ヒギンズは複数の等価な構造を持つ非剛体分子について適したより一般的な種類の対称群を提唱している。これらの群は「置換-反転」群と呼ばれる。これは、対称操作が等価な核のエネルギー的に許容な置換あるいは重心に関する反転、あるいはそれら2つの組み合わせであり得るためである。 例えば、エタン(C2H6)は3つの等価なねじれ形配座を持つ。ある配座のもう一つの配座への変換は、1つのメチル基のもう一方のメチル基に相対的な「内部回転」によって常温で起こる。これはC3軸に関する全分子の回転ではないが、1つのメチル基の3つの同一の水素原子の置換として記述することができる。上記の表で示されているようにそれぞれの配座はD3d対称性を持つものの、内部回転、関連した量子状態およびエネルギー準位の記述はより完全な置換-反転群を必要とする。 同様に、アンモニア(NH3)は2つの等価な三角錐(C3v)配座を持ち、これらの配座は窒素反転として知られる過程によって相互変換する。NH3は反転中心を持たないため、これは剛体分子の対称操作に対して用いられている意味での反転ではない。むしろ、この分子についてエネルギー的に許容される(窒素に近い)重心に関する全原子の鏡映である。再び、置換-反転群が2つの構造の相互作用を記述するために用いられる。 非剛体分子の対称性への2つ目の似た手法はAltmannによるものである。この手法では、対称群は「シュレーディンガー超群」と呼ばれ、(1) 剛体分子の幾何対称操作(回転、鏡映、反転)、(2) 「等力 (isodynamic) 操作」という2種類の操作(とそれらの組合せ)からなる。後者は、単結合に関する回転(エタン)あるいは分子の反転(アンモニア)といった物理学的に合理的な過程によって非剛体分子をエネルギー的に等価な形へと入れる。
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