近代以前の日本の著作に関する権利
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 06:40 UTC 版)
「版権」の記事における「近代以前の日本の著作に関する権利」の解説
日本においては明治時代に福澤らによって版権の概念が紹介される以前は日本には著作者に著作物に関する権利はほとんどなかったとされている。 江戸時代以前において、出版物に関する権利を有していたのはその出版物の文字や絵が刻み込まれていた版木を製作した者あるいは所有していた者であった。当時は1枚の版木に文字や絵を刻んで作った版木を元に木版印刷を行って出版物を制作していたが、版木は一字一句でも刻み間違いがあれば無価値となるため、1冊の本を出版するまでに多額の費用と時間がかかった。そのため、版木自体への財産的価値が認められるとともに、そこから生み出される出版物に対する権利も派生すると考えられた。従って、版木の製作及び印刷の実際に行う版元(書物問屋・地本問屋)もしくはそのために資力を出した者、あるいは彼らから版木自体を購入した者がその版木と出版物に関する権利を有すると考えられていた。これに対して、版木に刻む文字や文章、絵の図案そのものを考案した著作者の権利は間接的に考慮されるに過ぎなかった。 ところが、1875年(明治8年)の「出版條例」の改正によって版権が導入されたことにより、出版物の主たる権利者が版木を持つ版元ではなく著作者であると規定されたことは、ほぼ同時並行して日本に導入された金属活字の導入と並んで日本の出版の世界に大混乱を与えた。版木から出版物への権利の派生が否定された上に木版印刷そのものが衰退したことで版木の財産的価値が無くなり、版木の価値=資本の式の上に成り立っていた版元の多くが経営に行き詰まり破綻し、生き残った業者も新たな経営形態を持った印刷業・出版業・書籍流通に転換していくことになったのである。
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