軽石ラフトとは? わかりやすく解説

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軽石ラフト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/09 14:34 UTC 版)

福徳岡ノ場の1986年の水中噴火によって浮き上がった軽石が海面を埋め尽くしている。遠方の島は南硫黄島。日本の海上保安庁による1986年1月20日の撮影[1]
軽石

軽石ラフト(かるいしラフト、英語: pumice raft)は、火山噴火により生じた大量の軽石: raft、ラフト)のように密集し水面・水中を漂う現象[2]軽石いかだ[3]軽石筏パミスラフトとも[4]。陸上の火山や火山島の火山のみならず、水面下の海底火山から噴出された軽石においても軽石ラフトはみられる。いかだ状に集まっているか否かにかかわらず水面・水中を漂う軽石は漂流軽石とも表現される[5][6]

海域では、場合によって数年から数十年以上浮遊し続け、風や潮流により数千キロメートル離れた場所に漂着することもある[2]

軽石ラフトは、あらゆる岩石の中で単位体積当たりの表面積が最も大きいこと[注 1]、長期間に渡っての漂流潮間帯での漂着脱水を含む多様な環境下に曝されること、そして潜在的に化学反応に有利な元素や化合物を吸収する能力があることを特徴としている。これらの理由をもって、軽石ラフトは生命の起源にとって理想的な基質である可能性があると提唱する宇宙生物学者もいる[7]

生物学者は、動物や植物が島から島へ軽石ラフトに乗って移動[注 2]することがありうると推定している[8][9]

顕著な例

ニューカレドニアの近海で1876年に捕鯨船ヴェロシティ号により報告され、その後、20世紀に至るまでの一部の地図にしっかりと掲載され続けていたサンディ島は、後に実際は存在しないことが確認され疑存島とされたが、シドニー大学の科学者チームによると、それはヴェロシティ号が軽石ラフトを陸地と誤認したことによって引き起こされた可能性があるという[10][11]

20世紀以降

トンガ周辺での火山噴火により1979年1984年に軽石ラフトが漂流しフィジーに到達したことがあり、長さが30キロメートル(9マイル)にも達したとする報告もある。

2006年8月のトンガのヴァヴァウ諸島近海の軽石ラフト。NASA Earth Observatoryに提供されたMODIS即時応答システムでの衛星画像。

2006年8月12日のトンガ周辺の南太平洋での火山活動は、新しい島を出現させた。8月にトンガ北部のヴァヴァウ諸島を出帆したヨット、マイケン号の乗組員は、水面上に複数の筋状に延びて漂う多孔質で明るい軽石ラフトを目撃し、広大で何マイルもの幅のある密に軽石で詰まった帯の中を航行したと報告している[12]。そして彼らは、噴火のたびに海面上にあらわれては侵食され消滅する短命な島[注 3]として知られているホームリーフ英語版海底火山が、海面上にあらわれて正に侵食に晒されている現場の目撃者ともなった[13]

2012年8月に、ニュージーランドの近海に非常に大規模な軽石ラフトが出現した。長さは480キロメートル(300マイル)で、幅は約50キロメートル(30マイル)の広がりをもち、軽石の塊は海面上に高さが60センチメートル(2フィート)以上も突き出ていたと報告された[14]。2012年8月10日には王立ニュージーランド海軍により、ニュージーランド北東のラウル島英語版近海で推定26,000平方キロメートル(10,000平方マイル)の軽石ラフトが観測された。可能性のある軽石の給源はニュージーランド北方のケルマデック諸島ハヴレ海山英語版の噴火です[15][16][17]

2019年8月に、トンガのラテ島英語版近海の熱帯太平洋で150平方キロメートル(58平方マイル)におよぶ大きな軽石ラフトが発見されている。船員らは「ビー玉径からバスケットボール径の塊で海面が滑らかに埋め尽くされ水面(みなも)を視認できなかった。また、硫黄臭もした。」と描写している[18][19]

日本周辺での例

沖縄県恩納村の海岸に打ち寄せられる軽石ラフト。2021年11月22日。
沖縄の羽地内海ヤガンナ島付近を漂流する軽石ラフト。2022年1月27日。

谷健一郎 (2024)は、次の3例を挙げている。日本ではこの3例は過去100年で海底火山の噴火に伴う大規模な軽石ラフトの発生例として知られている[20]

噴火して間もなく、噴火場所に近い西表島の海岸や港は軽石で覆われ、約3か月はこの状態が続き、船は身動き出来なかったという[21]。噴火後約1か月で、八重山諸島の海岸は軽石で埋めつくされ、中には大人2-3人が乗っても浮くほどの軽石もあり、たたみ一畳分の大きさであったとされる[22]加藤祐三 (2009)では、軽石の総噴出量は体積にして約1立方キロメートルと推測している[23]。また噴火して約3週間後、沖縄諸島各地の海岸にも軽石が打ち上げられ[24]、さらに黒潮対馬海流によって軽石は日本各地へ運ばれ、噴火約1年後に北海道礼文島まで漂着した軽石もあった[25]
鬼界カルデラ内の水深約300mの海底火山が、噴火により成長し新島、昭和硫黄島を形成する過程で多量の軽石が噴出し、3~4海里(5~7km)にわたる浮島が観察され、さらに5m程度の軽石から全長30mの十島丸に匹敵する径の軽石が浮き沈みする様子も観察され報告されている[26][27]。近傍の薩摩硫黄島に大量の軽石の塊が漂着し海岸や浅瀬を埋めた[26]
噴火から2か月を経て、この噴火で噴出したと見られる大量の軽石が、1000キロメートル以上離れた大東諸島、沖縄諸島、奄美諸島をはじめ各地の海岸に漂着した[28][29][30][31]

また、1663年寛文3年)夏に発生した北海道有珠山の噴火では現在の壮瞥町で3メートルの降灰を記録した上、内浦湾の海面にも大量の噴出物が浮いて降り積もり、沖合2,700間(約5キロメートル)まで陸地のようになったという[32]

脚注

注釈

  1. ^ 発泡した微細な火山ガラスからなる多孔質の軽石の属性である。
  2. ^ 渡り: animal seasonal migration)を包含する広義の動物の拡散。
  3. ^ 翻訳原文では"ephemeral island"の語で表現され、Ephemerality(儚さ)への内部リンクが施されている。

出典

  1. ^ 福徳岡ノ場”. 海域火山データベース. 海上保安庁海洋情報部. 2017年8月28日閲覧。
  2. ^ a b 谷健一郎 2024.
  3. ^ 海上を漂流する軽石いかだ|災害と緊急調査|産総研 地質調査総合センター / Geological Survey of Japan, AIST(2021年10月27日)
  4. ^ 軽石筏(かるいしいかだ)とは? 意味・読み方・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書
  5. ^ 鳥島近海の漂流軽石の情報|災害と緊急調査|産総研 地質調査総合センター / Geological Survey of Japan, AIST(及川輝樹ほか。2023年11月27日)
  6. ^ 及川輝樹 et al. 2024.
  7. ^ Martin D. Brasier, Richard Matthewman, Sean McMahon and David Wacey. "Pumice as a Remarkable Substrate for the Origin of Life" Astrobiology. August 31, 2011
  8. ^ New Island and Pumice Raft, Tonga, NASA Earth Observatory photo with commentary, August 2006
  9. ^ Nunn 2008, p. 59.
  10. ^ Seton et al. 2013.
  11. ^ Joel Achenbach (2013年4月4日). “Scientist unravels mystery of Coral Sea's ghostly Sandy Island”. Washington Post. https://www.washingtonpost.com/national/health-science/scientist-unravels-mystery-of-coral-seas-ghostly-sandy-island/2013/04/14/76316606-a508-11e2-8302-3c7e0ea97057_story.html 2021年5月24日閲覧。 
  12. ^ Stone sea and volcano”. Fredrik and Crew on Maiken. Blogger (2006年8月17日). 2008年11月7日閲覧。
  13. ^ New Island and Pumice Raft, Tonga, NASA Earth Observatory photo with commentary, November 2006
  14. ^ Space.com, "Source of Mysterious Pumice 'Raft' in Pacific Found, NASA Says", Jeanna Bryner, 14 August 2012
  15. ^ “Vast volcanic 'raft' found in Pacific, near New Zealand”. BBC News. (2012年8月10日). https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-19207810 2012年8月10日閲覧。 
  16. ^ “Pumice raft bigger than area of Israel”. The Australian. (2012年8月10日). オリジナルの2012年8月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120811111033/http://www.theaustralian.com.au/news/breaking-news/undersea-eruption-creates-pumic-raft/story-fn3dxix6-1226447601191 
  17. ^ “'Weirdest thing' floats in South Pacific - CNN.com”. CNN. (2012年8月11日). http://edition.cnn.com/2012/08/10/world/asia/floating-pumice/index.html 
  18. ^ “A Raft of Rock”. NASA. (2019年8月13日). https://earthobservatory.nasa.gov/images/145490/a-raft-of-rock 
  19. ^ “Vast 'pumice raft' found drifting through Pacific Ocean”. BBC. (2019年8月26日). https://www.bbc.com/news/world-australia-49469446 
  20. ^ 池上郁彦 2021.
  21. ^ 加藤祐三 1995, p. 132.
  22. ^ 加藤祐三 2009, pp. 32–35.
  23. ^ 加藤祐三 2009, p. 36.
  24. ^ 加藤祐三 2009, p. 39.
  25. ^ 加藤祐三 1995, p. 133.
  26. ^ a b 田中館秀三 1935.
  27. ^ 昭和硫黄島噴火経緯 - Iwojima(篠原宏志ほか) < 火山活動 < 火山研究解説集:薩摩硫黄島 < 日本の活火山 < 地質調査総合センター
  28. ^ “「福徳岡ノ場」噴火、戦後最大級と判明 桜島「大正噴火」に次ぐ規模”. 毎日新聞. (2021年10月23日). オリジナルの2021年10月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20211023063546/https://mainichi.jp/articles/20211023/k00/00m/040/003000c 
  29. ^ “沖縄・北大東島を取り巻く灰色ライン 謎の漂着物の正体は?”. 琉球新報. (2021年10月8日). オリジナルの2021年10月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20211008094634/https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1404891.html 
  30. ^ “1450キロ離れた沖縄本島にも「軽石」漂着 小笠原の海底火山噴火の影響か”. 琉球新報. (2021年10月14日). オリジナルの2021年10月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20211014021632/https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1407506.html 
  31. ^ 福徳岡ノ場火山の漂着軽石 < かだいおうち Advanced Course
  32. ^ 虻田町 1983.

参考文献

本文献中の「浮石」は軽石の別称であることに留意。

関連項目

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