薬剤感受性と薬剤耐性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 23:48 UTC 版)
細菌やウイルスの病原性微生物によって引き起こされる感染症や、がん細胞の増殖によっておきる悪性腫瘍の治療法の一つとして、これらの病原体を殺したり、あるいはその増殖を抑制する化学物質を治療薬として投与する化学療法がある。化学療法に用いられる薬剤(化学療法剤)には抗菌薬(抗生物質)、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗原虫薬、抗癌剤が含まれ、それぞれに多くの種類が開発、実用化されている。 患者に投与して治療を行うためのものであるため、ヒトに対する毒性は低いが病原体には特異的に作用するという、選択毒性があることが化学療法剤には要求される。このため、細菌やウイルスだけが持ちヒトには存在しない特定の酵素を阻害したり、細菌やがん細胞だけに取り込まれ、正常なヒトの細胞は影響を及ぼしにくい特徴を持ったものが、化学療法剤として用いられている。 これらの薬剤は、例えば抗細菌薬であればすべての細菌に有効というわけではなく、薬剤の種類と対象となる微生物(または癌細胞)の組み合わせによって、有効な場合とそうでない場合がある。ある微生物に対してある薬剤が有効な場合、その微生物はその薬剤に対して感受性 (susceptibility) があると呼ぶ。これに対し、ある微生物に対してある薬剤が無効な場合には、 もともとその薬剤が無効である、 もともとは有効であったがある時点から無効になった、 という二つのケースが存在する。この両者の場合を、広義には耐性または抵抗性であると呼ぶが、通常は(2)のケースに当たる狭義のものを薬剤耐性 (drug resistance) または獲得耐性 (acquired resistance)と呼び、前者は不感受性 (insusceptibility) または自然耐性 (natural resistance) と呼んで区別することが多い。例えば、元からペニシリンが効かない結核菌は「ペニシリン不感受性」、もともとはペニシリンが有効であったブドウ球菌のうち、ペニシリンが有効なものを「ペニシリン感受性」、ペニシリンが効かなくなったものを「ペニシリン耐性」と呼び、このうち、最後のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が、一般には「薬剤耐性」と表現されることが多い。 薬剤耐性を獲得した微生物は、細菌の場合は薬剤耐性菌、ウイルスは薬剤耐性ウイルス、がん細胞は薬剤耐性がん細胞などのように総称される。また個々のものについては、上に記した例のように、対象となる薬剤と微生物との組み合わせによって、「ペニシリン耐性ブドウ球菌」などと表記される。また、複数の薬剤に対する耐性を併せ持つことを多剤耐性 (multidrug resistance、後述) と呼び、医学分野では治療の難しさから特に重要視することが多い。また、ある薬剤に対する耐性が、それと類似の薬剤に対する耐性として働く場合を、交差耐性と呼ぶ。
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