自然債務の類例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/06/25 02:23 UTC 版)
広義、狭義を問わず、自然債務の類例として講学上挙げられるものには以下がある。 徳義上(道義的責任)の支払債務 訴訟不提起特約付きの債務 消滅時効にかかった債務 不法原因給付に基づく債務(民法708条) 民事訴訟の勝訴判決後に訴えが取下げられた債務 破産決定後に免責決定を受けた債務(破産法253条1項) なお、我妻榮は、利息制限法上の制限利息を超過して支払われた利息について、自然債務であるとするが、判例上は、不当利得として返還請求の対象になっており、自然債務として扱われていない。 徳義上の支払債務とは、前述の請求力すら欠けているもの、つまり債権者が殊更債務者に請求することもできず、弁済がただ債務者の任意に依拠する債務を言う。例として、道徳上、社交上、宗教上の約束事で、法源性を持たないもの、例えば暗黙のルール、紳士協定に属するものや、病気の患者、交通事故被害者に対する見舞い品、見舞い金として交付されたものなどがある。たとえ同一の不法行為に対して、本来の不法行為損害賠償とは別個に徳義上の支払債務を履行したとしても、それが社会通念上認められる範囲内であれば、不当利得による返還請求も、本来損害との損益相殺も認められない。 訴訟不提起特約付きの債務については、文字通り訴求力を持たないため執行力をも持たない。よって字義通りの自然債務に当たる。 消滅時効に係る債務については、消滅時効を援用した債務者がこれを任意に弁済した場合について、消滅時効の援用により実体法上も債務は消滅し、援用後の弁済は非債弁済に当たるとする説(実体法説)と、消滅時効の援用は訴訟における訴求力、執行力を消滅させるに過ぎず、弁済の給付保持力までも消滅させないとし、時効援用後の弁済は自然債務の弁済とする説(訴訟法説)がある。判例通説は、実体法説に立つ。 不法原因給付による債務は、自然債務と言うよりはむしろ、民法第708条の反射的効果として被給付者に所有権が移転すると言う説が判例上も有力である。 破産決定により免責された個人の金銭債務は、消滅するのではなく自然債務として残存すると言うのが通説である。よって破産決定後に債務者が自発的に支払った債務は、自然債務の残存する範囲内において充当され、不当利得としての返還請求をする事ができない。破産法人に対する場合はこの限りでない。
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