総称表現と冠詞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 03:32 UTC 版)
冠詞は、総称表現と密接な関係がある。例えば、日本語で「ライオンは危険な動物である」と言った場合、特殊な文脈でない限り、『ライオンは総じて危険である』という意味をなし、(どの1頭かは特定されないが)あるライオン(だけ)が危険だとか、特定のライオンだけが危険だということは意味しない。ここで、ライオンは可算名詞である。これに対応する文は、不定冠詞の複数形や部分冠詞のない英語では、 A lion is a dangerous animal. (不定冠詞・単数: 下二つの中間的な表現) Lions are dangerous animals. (無冠詞・複数: 会話的で一般的な表現) The lion is a dangerous animal. (定冠詞・単数: 文章的な堅い表現) *The lions are dangerous animals. (定冠詞・複数: 総称的表現としては誤り) である。この場合、 1 においては多数から代表個体を抽出するという性質から「あるライオンですら一頭の危険な動物である」、 2 においては全体を集合個体と見なすという性質から「あるライオンたちは一群の危険な動物である」、 3 においては定冠詞の抽象性の付与によるある個体と他の個体の間の境界を策定するという性質から「ライオンというものは一種の危険な動物である」となり、それぞれに総称的意味が現出する。しかし 4 では総称的表現として解釈すると「*『ライオンというもの』たちは一群の危険な動物である」というように概念としてのライオンが複数あるような表現になってしまい不適となる(「そのライオンたちは一群の危険な動物である」という個別的表現としてならば解釈可能である)。 一方、不定冠詞の複数形や部分冠詞のあるフランス語では、 Un lion est un animal dangereux. (不定冠詞・単数: 例外を許さない強い総称的表現) *Des lions sont des animaux dangereux. (不定冠詞・複数: 総称的表現としては誤り) Le lion est un animal dangereux. (定冠詞・単数: 一般的概念としてのライオン) Les lions sont des animaux dangereux. (定冠詞・複数: 自然な集合としてのライオン全体) である。上記の各組の文はいずれも補語の「危険な動物」は不定であり、主語の単数・複数と一致している。この場合、1 においては多数から代表個体を抽出するという性質を更に推し進めて「どのライオンであろうと一頭の危険な動物である」、3 においては定冠詞の抽象性の付与によるある個体と他の個体の間の境界を策定するという性質から「ライオンというものは一種の危険な動物である」、4 においては定冠詞の抽象性の付与と全体を集合個体と見なすという性質から「ライオンという種は一群の危険な動物である」となり、それぞれに総称的意味が現出する。しかし 2 では総称的表現として解釈すると「*『あるライオンたち』ですら一群の危険な動物である」というように代表個体が複数例に割り振られることで概念が曖昧になってしまい不適となる(「あるライオンたちは一群の危険な動物である」という個別的表現としてならば解釈可能である)。 不可算名詞の総称表現、例えば、「ビールはアルコール飲料である。」に対応する文は、英語では、 Beer is an alcoholic drink. (無冠詞、一般的) *The beer is an alcoholic drink. (Beerは不可算名詞なのでtheは付けない) であり、先の定冠詞(+ 可算名詞複数)と同様にこちらも定冠詞は不適である。一方、フランス語では、 La bière est une boisson alcoolique. (定冠詞) *De la bière est une boisson alcoolique. (部分冠詞、誤り) であり、先の不定冠詞複数(+ 可算名詞複数)と起源を同一にする部分冠詞(+ 不可算名詞)では総称にならない。このようにいずれの例でも総称的表現においての適・不適には同様の関係性が成立している。
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