総エネルギー補正
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/30 22:44 UTC 版)
しかし、滑空競技が発展すると、こうした単純な「非補償型」の計器には限界があることがわかった。高く飛ぶために操縦士が本当に必要としている情報は、グライダー自体の垂直速度ではなく、飛行している周囲の空気の垂直速度である。 操縦士は、高度を速度に変換できるし、速度を高度に変換することもできる。これはエネルギー用語で言えば運動エネルギーを位置エネルギーに交換することを意味していて、逆もまた同様に成り立つ。つまり、速度(運動エネルギー)を失う代償として、高度(位置エネルギー)を上げることは可能である。その時に「非補償型」の単純な昇降計は、機体の上昇を示すが、滑空機にとっては、自らの速度(運動エネルギー)を消費して高度(位置エネルギー)が上がる場合はあまり重要ではない。外界の上昇気流からの力(エネルギー)を得て、自らの(運動+位置の)「総」エネルギーを獲得する事が重要である。 このため、現代の多くのグライダーは「総エネルギー」または「補償型」バリオメータとして知られる計器を装備している。これは、速度(運動エネルギー)の変化率を差し引いて、高度(位置エネルギー)の変化率の計測を調節している。ほとんどのグライダーでは、対気速度の変化に従って吸引の変化が発生する装置である「総エネルギープローブ(total energy probe)」経由でバリオメータを大気に接続することで実現している。別の方法としては、対気速度を測定して、速度(運動エネルギー)が高度(位置エネルギー)に変化することで高度が変わって発生する圧力の変化を計算して、電気的に差し引きすることもある。 総エネルギープローブは、古典的なベンチュリ管(二つの小さな漏斗が細い側で接続されている)の構造をしているか、または、垂直な管の裏に溝または二つの穴がある単純な構造をしている。こうした構造により、気流で吸気(減圧)が起きる。操縦士がグライダーを降下させると、対気速度が増加して吸気が増加し、バリオメータの圧力は下がる。慎重に設定すれば、高度が下がることによる機外静圧の増加は、対気速度の増加による圧力の減少で厳密に相殺される。最終的には、高度の変化によってバリオメータの表示はまったく変わらず、機速の変化による影響が除外されることとなる。 この補正効果の精度を上げるためには、総エネルギープローブをできるだけ安定した気流の中に配置する必要がある。したがって、現代のほとんどのグライダーでは、末端がねじれた長い片持ち式チューブ(brunswick tube)が、安定板の先端から飛び出しているのが見られる。 ごく一部ではあるが、総エネルギー昇降計が装備されている動力機もある。一定の高度を保持したり安定した上昇・降下を維持したいことはしばしばあり、高度の真実の変化率にはより関心が持たれている。 2番目のタイプの補償型バリオメータとは、ネット(Netto)またはエアマス(airmass)バリオメータである。 この計器は、(ポーラカーブに基づいて)与えられた速度でのグライダー固有の降下率を表示し、静かな大気中では常にゼロを示すほどである。 これはグライダーが飛ぼうとしている空気について、はるかに正確な実態が得られる。 しかし、グライダーが旋回するために止まるとき、上昇率として表示された値は「真の」上昇率ではない。 操縦士は心の中でグライダーの降下率を引き算しなければならない(たいていは約1.6ktだが、実用的な近似値としては2ktが適している)。 この問題を解決するために、相対ネット(relative Netto)(まれにスーパーネット(super Netto))バリオメータは、1.6ktの定数をマイナスして値を表示する。 操縦士は、サーマルに留まる価値があるかどうかの決断を非常に素早く行なえるようになる。 計器板のバリオメータの横で1.6ktの位置にマークして、その位置をゼロとみなせば相対ネットの効果をシミュレートすることができる。
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