組織修復
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/11 05:34 UTC 版)
ミューズ細胞は生体内で組織修復を担っている細胞である可能性がある。脳梗塞患者では、発症後24時間で末梢血中のミューズ細胞数が統計的有意差をもって増加することが報告されている。心筋梗塞患者の末梢血中の内因性ミューズ細胞の動態解析では、発症急性期に血液中のミューズ細胞が増加した患者では半年後、心機能回復や心不全回避の傾向が見られた。一方、急性期に増加しなかった患者ではこれらの効果を示さない傾向が見られた。このことから、内因性のミューズ細胞は傷害を受けた臓器の修復に関わっていることが示唆されている。 また実験的には、遺伝子導入やサイトカイン処理が施されていないミューズ細胞をそのまま静脈投与すると、sphingosine-1-phosphate (S1P)-S1P receptor 2 システムによって損傷部位へと遊走・生着し、その組織に適した細胞へと自発的に分化して組織修復や機能回復をもたらすことが動物モデルで示されている。 心筋梗塞モデル(TroponinI, alpha-actinin, Connexin43等を発現する心筋細胞) 劇症肝炎モデル&肝部分切除モデル (解毒酵素や糖代謝酵素を発現するalbumin・HepPar1陽性肝細胞へ分化) 腎不全モデル(糸球体を構成する細胞、すなわちWT-1, podocin陽性足細胞、Megsin陽性メサンギウム細胞、CD31, von Willebrand factor陽性血管内皮細胞) 筋変性モデル (ジストロフィン発現細胞へ分化) 大動脈瘤モデル(CD31,smooth muscle actin陽性の血管内皮細胞) 脳梗塞モデル、ALSモデル、新生児低酸素性虚血性脳症モデル、病原性大腸菌による急性脳症モデル(MAP-2, NeuN等陽性の神経細胞、GST-p、GFAPi等陽性のグリア細胞) 表皮水疱症モデル(cytokeratin-14, -15, desmoglein-3を発現する表皮細胞) また局所投与によっても同様に傷害部位へ遊走・生着し、組織に適した細胞に自発分化し、組織修復と機能回復をもたらすことが報告されている。 脳梗塞・脳出血モデル (NeuN・Calbindin・Synaptophysin等を発現し錐体路に組み込まれる神経細胞、およびGSTπ陽性オリゴデンドロサイトへの分化) 脊髄損傷モデル (ニューロフィラメント・MAP-2発現細胞へ分化) 皮膚損傷モデル・糖尿病性皮膚潰瘍(サイトケラチン14陽性角化細胞へ分化) サイトカイン処理も人為的な遺伝子操作も必要なく、ただ血中に注入するだけで組織が修復できることは、再生医療での大きな利点である。現在、三菱ケミカルホールディングスグループ傘下の株式会社生命科学インスティテュートにより医薬品製造品質管理基準(GMP)および再生医療等製品に関わる規制要件(GCTP)を満たす細胞処理手順が確立されて、2018年1月より急性心筋梗塞患者を対象とした探索的臨床試験の治験が開始されている。
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