移動閉塞の課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/14 19:46 UTC 版)
システムを固定閉塞から移動閉塞に変更する場合、次のような課題点が想定される。 軌道回路を設置しない場合は、車両の遺留検知機能は車上側に移され、各列車・車両において車両分離が発生していないことを保証しなければならない(ETCS Level.3)。なお、軌道回路を設置しない事の副作用として、区間途中でのレールの破断を検知できなくなる。 移動閉塞においては、システムを施行する区間内にある全列車について、一定の高精度でその現在位置がシステムに把握されている事が必要である。よって、移動閉塞に非対応の列車・車両は、工事車両を含めて区間内に進入する事ができないばかりか、非対応列車・車両の進入を、(できれば)物理的に排除するシステムが必要となる。これは特に、他の接続路線に多数の固定閉塞路線を抱える事業者にとって問題となる。 連続した時間内で、全列車が高精度の現在位置を把握される必要があるため、長時間の通信エラーや一時的途絶によりその前提が崩れた場合、システム内の全列車が緊急停止する必要に迫られる。また、停電によりシステムの一部でも稼働しない場合にも、全面停止となる。ただしこの点は、全区間を1システムで集中管理するのではなく、管理区間を分散し協調制御とすることで緩和が可能である。 「枯れた技術」と確立した可用性を持った従来の固定閉塞による信号保安システムと比較して、移動閉塞においては、高度な情報処理及び無線通信システムの可用性は運行の安定性に直結するため、車両上の装置を含めて、フェイルオーバー対応などシステムが高コストになる可能性がある。駅間1閉塞のような閑散線区における導入は現実性に乏しい。 固定閉塞と比較して線路容量を増やす目的が移動閉塞にはあるが、例えばATACSにおいては無線通信に使用する1基地局のカバーエリアは3 kmでありこの区間に上下12列車を収容できる。この場合、固定閉塞の閉塞区間長に換算すると単純計算では500 mとなる。基地局の収容容量を超える本数の列車を当該無線区間に進入させる事はできないため(システム全停止の原因となる)、区間外で徐行、停止により待機させる必要が生じる。これ以上の列車密度が必要な場合には、無線通信の性能向上や無線周波数帯域の新たな確保を迫られる。
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