生物学研究への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 18:10 UTC 版)
「ポリメラーゼ連鎖反応」の記事における「生物学研究への応用」の解説
PCRは分子生物学や遺伝学をはじめとする、様々な研究分野に応用されている。 PCRを用いてゲノム中の特定のDNA領域を選択的に増幅し分離することができる。このようなPCRの利用は、サザンブロッティングやノーザンブロッティングといったハイブリダイゼーション用プローブの生成や、特定のDNA領域に由来した大量のDNA断片を必要とするDNAクローニングなどで広く行われている。 PCRはDNAシーケンスを行う上でもしばしば重要である。様々なPCRにより、例えば完全に未知のゲノムから解析対象の遺伝子配列やDNA領域を抽出して増幅したりできる。 PCRは、DNAクローニングなどの古典的な実験プロセスで多く活用されている。例えば大きなゲノムから、特定のゲノム領域をベクターに挿入する際などに利用される。また、すでにベクターに挿入されているDNA断片を分析したり増幅するために利用することもできる。PCRプロトコルを一部変更することで、挿入断片の突然変異を人為的に誘発することもできる。 古代DNAを対象とした研究にも、PCRはよく活用される。このような古代DNAは大部分が紫外線や加水分解により分解されており、極微量の二本鎖DNAしか存在しない場合が多いため、PCRで増幅をかけることではじめて解析を行うことが可能になる。実際にPCRを用いた研究例としては、ネアンデルタール人の骨、4万年前のマンモスの凍結組織、エジプトのミイラの脳などがあり、他にはロシア皇帝やイギリス王リチャード3世の同定などが行われている。場合によっては、かなりの程度分解されてしまったDNAサンプルであっても、PCR増幅をかけることである程度元のDNA配列を復元することができる可能性がある。 遺伝子発現のパターンの研究にもPCRが利用される。体組織や個々の細胞をさまざまな時系列段階で分析して、どの遺伝子が活性化/非活性化したのかを調べることができるほか、定量PCRを使用して実際の発現レベルを詳細に定量化することもできる。 PCRは遺伝的連鎖の研究にも利用されている。例えば、個々の精子からいくつかの遺伝子座を同時に増幅し、減数分裂後の染色体クロスオーバーを調べた研究が報告されている。この研究では、数千の精子を分析することで、非常に近い遺伝子座間のまれなクロスオーバーイベントが直接観察されている。同様に、異常な欠失、挿入、転座、または反転を分析することができる。 PCRを使用して、任意の遺伝子やゲノム領域の部位特異的な突然変異を誘発することができる。これらの変異体を調べることで、例えばタンパク質の機能を解明したり、あるいはタンパク質の機能を変更または改善する研究を進めることができる。
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