生得性と学習
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 14:23 UTC 版)
通常、後天的にものを覚える、つまり学習が成立するためには、特に知能がさほど発達していない動物では、繰り返しと一定の時間の持続が必要であると考えられていた。しかし、この例ではほんの一瞬でその記憶が成立している。しかも、それがその後にも引き続いて長時間にわたって持ち越される。ローレンツはこの現象が、まるで雛の頭の中に一瞬の出来事が印刷されたかのようだとして、刷り込み(imprinting)と名付けた。通常は、親が卵を温め、声をかけるから、このような仕組みでも失敗は生じないはずである。またアヒルでは動く物を親と認識するが、カモでは動きに加えて適切な鳴き声がないと親と認識しないというように種によっても様式が異なる。 この現象は古典行動主義が想定していたような、行動は刺激に対する古典的あるいはオペラント条件付けの結果であるという単純な結びつきでは説明できない。刷り込みにかかわる行動は、その基本的な部分は先天的、遺伝的に持っているものであり、そこに後天的に変更可能な部分が含まれている事を示している。鳥類の場合、繁殖期のさえずりは本能行動的であるが、その鳴き方は学習による部分があるなど、類似の例も多い。 この議論は別の議論を引き起こした。発達生物学者ギルバート・ゴッドリーブは、孵化前のカモが自分の鳴き声を聞くことで自分と同じ種の声を覚え、親を認識できると実験で明らかにし、本能の概念を批判した。これは生まれながらに持つ生得的に見える行動にも学習の影響が及ぶ可能性を示している。しかしながら、ゴットリーブの実験でも、なぜ子ガモが産まれる前に鳴き自分の声を覚えるか、を学習の結果としては説明できなかった。この議論はローレンツの次の世代の動物行動学者に、学習の生得的基盤、生得性と学習がどのように相互作用するか、学習の多様性と言う新しい視点をもたらした。
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