火星フライバイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/26 05:26 UTC 版)
「のぞみ (探査機)」の記事における「火星フライバイ」の解説
のぞみは火星へ接近する軌道に投入されたが、電源系統は依然回復せず、またメインスラスター用の推進剤を解凍するためにはヒーターの復旧が必要だったため、電源を入れ続けることでショート箇所を焼き切るという復旧案が計画された。そのため高速で電源をONにするプログラムが作成され、2003年7月5日にのぞみへ送信された。この連続電源ONのコマンドは、1億2000万回実行されたといわれている。7月9日にはのぞみからの電波が途切れたが、これは電源をONにした際に発生するノイズによる誤動作とみられ、予期されたものだった。しかし、これ以降のぞみからの電波は途絶えたままとなって地球からはのぞみの状態を一切把握できなくなり、ただ一方的に電波を送るだけとなってしまった。 火星到達の半月前になる11月半ば、一部ではまさしく火星に衝突するかのような報道がなされたが、このまま進むと予測通り12月14日に火星から 894 kmの地点を通過することになっていた。復旧のタイムリミットは、火星周回軌道への軌道変更の準備時間を見積もって12月9日とされていた。この時点でのぞみからの電波送信などの機能が回復していなければ、補助スラスターを噴射して火星への接近距離を少し離す処置が検討された。これは宇宙空間研究連絡会議による世界的な取り決めに従って、「殺菌消毒を施していない機器は打ち上げ20年以内に火星に衝突する確率を1パーセント以内に抑える」ためであった。軌道設計チームは12月14日の火星最接近後ものぞみを生かす軌道を検討したが、どの軌道でも衝突確率が1パーセントをわずかに上回る計算となった。タイムリミットである12月9日、最後までのぞみからの電波は届かなかった。その日、衝突回避のための弱いスラスター噴射を行うコマンドが送信された。 12月14日午前3時42分、のぞみは火星から約1,000 km上空を通過したと推測されている。この時、機器類が正常に作動していれば、火星表面の写真を自動的に撮影したはずである。無論、それはのぞみに記録されるだけで地球には送信できない。12月19日にのぞみは予測された軌道のずれが地球から観測できる領域を超えたとみられるため、12月31日にのぞみの方向へ電波発信を停止させるプログラムを送信し、のぞみは観測機としての一切の機能を停止、ミッションは終了した。のぞみは今後、(軌道変更コマンドが正常に受信・実行されていれば)数億年に渡って火星とほぼ同じ軌道を回り続けると考えられている。
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