混合性酸塩基障害の検出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 23:21 UTC 版)
「アシドーシスとアルカローシス」の記事における「混合性酸塩基障害の検出」の解説
酸塩基障害を起こす病体は数多くあり、それらは合併することが非常に多い。そのためには正しく血液ガス分析を行う必要がある。以下にその方法の一例をまとめる。 血液ガス分析の詳細については「血液ガス分析」を参照 まずアシデミアがあるのかアルカレミアがあるのかを調べる。基本的に代償機構ではアシデミアがアルカレミアになるような大きな代償は起こらない。アシデミアがある時点で、呼吸性アシドーシスか代謝性アシドーシス、あるいはその両方が最初に起こったと考えてよい。 アシデミアあるいはアルカレミアが代謝性のものなのか、あるいは呼吸性のものなのかを考える。 AG=ナトリウムイオン-(重炭酸イオン+クロールイオン)を計算する。AGが増加していればそれだけで代謝性アシドーシスの存在を意味する。注意すべきはAGは低下する病態が存在することである。具体的には低アルブミン血症、IgG多発性骨髄腫、ブロマイド中毒、高カルシウム血症、高マグネシウム血症、高カリウム血症が存在する。特に低アルブミン血症のためAGの増加がマスクされることはよくあり、アルブミンが1mg/dL低下するごとにAGは2.5~3mEq/L低下することが知られている。これはアルブミンがアニオンであるためである。またAGが増加していれば補正重炭酸イオンを計算する。これは補正重炭酸イオン=重炭酸イオン+ΔAG(ΔAG=AG-12である)で計算され、これは代謝性アシドーシスを来たした陰イオンの増加分がなかったと仮定した場合の重炭酸イオンの値である。 代償性変化が一次性の酸塩基平衡異常に対して予測された範囲内にあるかどうかを検討する。この代償性変化が予測範囲を外れている場合は他の酸塩基平衡異常をきたす病態が存在することを意味する。代償性変化以外の混合性酸塩基異常というものは比較的ありふれた病態であり、代償性変化の予測値を用いることでそれらを検出することができ、血液ガス分析の診断能力をあげることができる。代償性変化の予測値は次のような経験則が知られている。ΔHCO−3は補正HCO−3ではなく、測定されたHCO−3で計算することに注意する。 代謝性アシドーシスの呼吸性代償 ΔpCO2 = 1~1.3 × ΔHCO−3 MAX:pCO2 = 15mmHg 代謝性アルカローシスの呼吸性代償 ΔpCO2 = 0.6~0.7 × ΔHCO−3 MAX:pCO2 = 60mmHg 呼吸性アシドーシスの代謝性代償 急性 ΔHCO−3 = 0.1 × ΔpCO2 MAX:HCO−3 = 30 慢性 ΔHCO−3 = 0.3~0.35 × ΔpCO2 MAX:HCO−3=42 呼吸性アルカローシスの代謝性代償 急性 ΔHCO−3 = 0.2 × ΔpCO2 MAX:HCO−3 = 18 慢性 ΔHCO−3 = 0.4~0.5 × ΔpCO2 MAX:HCO−3 = 12 なお、通常はΔ計算をおこなうときはHCO−3 は24、pCO2は40、AGは12を正常値として差分をとることが多い。AGの計算は隠れているAG増大性代謝性アシドーシスを検出することである。慢性腎不全のようにAG増大性代謝性アシドーシスと高Cl性代謝性アシドーシスは合併することが知られており、それを見落とさせように補正HCO3を計算する。またアシデミア、アルカレミアに対しては代償性機構が働く。全てのアシドーシス、アルカローシスに働くわけではない。その範囲を予測することで範囲外にあった場合はそれ以外のアシドーシスかアルカローシスが存在すると考える。これが基本的な考え方である。 例えば、慢性腎不全の患者が嘔吐をし、脱水を起こし、アルカレミアとなったときその原因は代謝性アルカローシスであり、代償性呼吸性アシドーシスが起こるのだが、上記プロトコールに当てはめると、AG増大性代謝性アシドーシスと高Cl性代謝性アシドーシスを検出できる。また代償性呼吸性アシドーシスの予測範囲内にパラメータが入っていなければ、それ以外の呼吸障害の合併も考えることができる。このように血液ガス分析を正しく行うことで診断の精度を高めることができ、治療のマネジメントの選択肢を増やすこともできる。例えば、オピオイド投与中の患者で呼吸性アルカローシスの合併をみたら、まだ呼吸抑制が起こっても過呼吸が改善するだけなのでオピオイドを増量できるといったことである。
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