洗礼者聖ヨハネ (エル・グレコ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/23 06:35 UTC 版)
スペイン語: San Juan Bautista 英語: Saint John the Baptist |
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作者 | エル・グレコ |
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製作年 | 1597-1607年ごろ |
種類 | キャンバス、油彩 |
寸法 | 111 cm × 66 cm (44 in × 26 in) |
所蔵 | サン・フランシスコ美術館群、サン・フランシスコ |
『洗礼者聖ヨハネ』は、 (せんれいしゃせいヨハネ、西: San Juan Bautista、英: Saint John the Baptist)は、ギリシャ・クレタ島出身であるマニエリスム期のスペインの巨匠エル・グレコが1597-1607年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。1929年まで、シウダー・レアルにあるマラゴンのサン・ホセ修道院 (Convento de San José) に所蔵されていた[1]。その後、何人かの個人所有者を経て、1946年にサン・フランシスコ美術館群の一部をなすデ・ヤング美術館に収蔵された。1972年からは同美術館群に属すリージョン・オブ・オナー美術館に展示されている[1]。
作品
洗礼者ヨハネはイエス・キリストの到来を預言した人物であり、『旧約聖書』と『新約聖書』をつなぐ存在でもある[2]。「マタイによる福音書」 (3章:13-17)、「マルコによる福音書」 (1章1-11)、「ルカによる福音書」 (3章1-18, 21-22) によれば[3]、洗礼者ヨハネは聖母マリアの従姉妹のエリサベトの息子として1世紀のパレスチナに生まれた[4]。また、聖書の『外典』の記述によれば、贖罪の祈りを実践するよう両親に砂漠に放置され、幼少期を過ごしたとされる[4]。

荒野で隠者のように暮らしていたヨハネはラクダの毛衣を纏い、腰に帯紐を締め、イナゴと野蜜を食物としていた[2]。そして、説教を行い、ヨルダン川で罪の赦しを得るために人々に洗礼を施す暮らしを続けていたが、ある日、イエス・キリストが洗礼を受けるために彼のもとに姿を現す[4]。画面右端に見える紙片には「ECCE AGNUS DEI (見よ、神の子羊)」と記されているが、それはヨハネがキリストを目にしていった言葉である。ヨハネは、洗礼を受けることを申し出たキリストに「私こそ、あなたから洗礼を受けるべきです」と恐縮した。しかし、キリストは「あなたから洗礼を受けることが神の御心です」と説得し、洗礼を受ける。その最中、突如、天が裂けて、雲の合間から白いハトのように聖霊が現れた[2][4]。そして、「これは私の愛する子、私の心に適う者」という神の言葉が響いた[3]。
本作は、エル・グレコの洗礼者ヨハネを主題とする作品中、最良の作例である[1]。ヨハネは動物の毛皮を纏い、上に十字架の付いた長い杖を持つ若い姿で表現されている。彼の横の岩の上には羊が眠っており、ヨハネが預言した「神の子羊」、すなわちイエス・キリストを象徴する。この岩の上には、ギリシャ語による画家の署名が見える。ヨハネの頭部周囲の雲は光輪 (宗教美術) に類似している。さらに、力強い筆致が聖なる力に呼応する雰囲気を生んでいる。ヨハネの背景にあるのはエル・グレコが居住していた地元スペインの風景で、遠景にはエル・エスコリアル修道院が見える[1]。
なお、本作の別ヴァージョンがスペインのバレンシア美術館に所蔵されている。この別ヴァージョンでは、ヨハネの横にあるいくつかの岩や遠景が欠如している。
脚注
参考文献
- 『グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家』、国立西洋美術館、ボローニャ文化財・美術館特別監督局、チェント市、TBS、2015年刊行 ISBN 978-4-906908-12-7
- 大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行 ISBN 978-4-418-13223-2
- 岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行 ISBN 978-4-8163-5133-4
外部リンク
- 洗礼者聖ヨハネ (エル・グレコ)のページへのリンク