梅一輪一輪ずつの放射能
作 者 | |
季 語 | |
季 節 | 春 |
出 典 | 萬の翅 |
前 書 | |
評 言 | 作者は宮城県多賀城市在住。梅は春の訪れを告げる花。3.11までは、一輪一輪咲き増えてくる梅に、いのち溢れる春の到来を喜んでおられたことだろう。 福島原発の水素爆発は、放射能を拡散、福島、宮城をはじめ広範な国土を、瞬時に汚染してしまった。14万人もの人が、ふるさとを追われ、今も9万人もの人がわが家に帰れないでいる。あの日から五たびの春が巡り、梅は咲いた。梅は咲いてもそこに春を喜ぶ人がいない。汚染土を詰めた黒い袋が累々と並ぶばかり。永久に時間が止まったような町。この句の内に広がる光景は、身の竦むほど怖ろしいものだ。 原発の安全神話が崩れたこの時、やっぱりと思った。故郷南島町(現南伊勢町)は、37年にわたり中部電力芦浜原発設置に反対して、白紙撤回を勝ち取った。「本当に安全ならもっと便利な都会に作れ」と漁民は言いつづけた。中電、国、県、学者が一丸となり、圧倒的な金と権力で、貧しくても助けあって生きてきた共同体をずたずたに引き裂き、踏みにじった。転んで泣く子を、反対派の子か賛成派かと顔を確かめる。中学校の同窓会も開けない。親、兄弟、親戚が二つに分かれていがみ合う。反対派への嫌がらせは手を変え品を変えて壮絶だった。海を守る、と男たち、子どもを守る、と女たち。この闘いの終盤、12月の底冷えのする朝、機動隊と対峙することになった。その時、流血を避けるため女たちがピケの前列に立った。母たち年寄りは般若心経を唱えた。「ゴボウぬき」が始まる。妹はその後に、自分たちが闘つていたもの大きさ怖さを知ったと言った。いのち賭けの闘いが白紙撤回を勝ち取るまでには、この後6年を有した。 福島原発のこの事態にだれ一人責任をとらない。溶融した原子炉の処理の方法すら見つからずにいるのに再稼働。あろうことか海外へ売ろうとまでしている。国のため、金儲けのために多くの犠牲を可とする、弱い者を切り捨てる差別が原発政策の底にある。 春天より我らが生みし放射能 高野ムツオ 痛恨の一句が迫ってくる。 |
評 者 | |
備 考 |
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