憲法第29条3項の「正当な補償」
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「損失補償」の記事における「憲法第29条3項の「正当な補償」」の解説
憲法第29条第3項の「正当な補償」の意味については、完全補償説、相当補償説、中間説がみられる。 完全補償説完全補償説とは、憲法第29条第3項の「正当な補償」として必ず完全の補償をしなければならないとする学説である。 相当補償説相当補償説とは、憲法第29条第3項の「正当な補償」とは、公共の必要性、社会的・経済的事情などを考慮して決められる合理的な相当額であるとする学説である。 中間説完全補償と相当補償は二者択一的ではないとして損失補償の原因となる財産権の侵害ごとに完全な補償を必要とする場合と相当な補償で足りる場合があるとする学説が有力になっている。その分類の基準について学説は多岐にわたる。 学説の傾向としては、特別の場合(農地改革や産業の国有化・社会化立法など社会変革を目的とする場合)を除き、国の通常の政策実現に際して生ずる損失の公平負担という見地からすれば、収用等の前後で財産的価値に増減がないということをもって正当な補償と考え原則完全補償をとるべきとみられるようになっている。 判例では、最高裁は農地改革における農地買収の対価の合憲性について「憲法二九条三項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必しも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでない」と相当補償説の立場を示した(最大判昭和28年12月23日民集第7巻13号1523頁)。しかし、土地収用法による損失補償については最高裁は「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」と完全補償を必要としている(最判昭和48年10月18日民集第27巻9号1210頁)。
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