弦理論の衰退
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 15:23 UTC 版)
しかし、ハドロンの弦理論は様々な欠陥を含んでいた。この弦に基づく強い力の記述は、実験結果と直接矛盾する多くの予測を算出した。まず、弦の運動が安定して維持可能な時空は26次元に限られていた。また、弦のスピンは整数であり、ハドロンの理論にもかかわらずボース粒子的な性質を有していた。この他に閉じた弦の振動の種類には重力子や、理論の不安定性を表すタキオンの存在が要請された。 これらの欠陥が判明し出した頃に、ゲージ場の粒子であるグルーオンによって力が媒介されるとする量子色力学の発展が1974年に始まり、強い相互作用の特性を正確に記述できることがわかってきた。南部はクォークの閉じ込めについて、弦をいくら切断しても端部を取り出せず、新たな端を形成するだけとイメージした。これに対して、量子色力学においては、二つのクォークが引き離されると、単純にそれ以上引き離すよりも、その間の真空から新たにクォークと反クォークの対を生成し、新たな2個のクォークにより構成される粒子になる方が、必要なエネルギーが低いと考える。 このため、ほとんどの研究者が弦理論から撤退していった。当時の状況に関して南部は「結局は、紐理論、いわゆるハドロンの紐模型はだめだということが結論されたのは1974年ごろだと思っているのです。1974年夏、アスペンのいわゆる合宿の研究会にそのころの研究家のほとんど全部が集まったのです。そのときの結論として、どうもこれはだめだろうということになったということを、吉川(圭二)さんから聞きました」と述べている。現在ではハドロンの弦理論は、クォーク間のゲージ場の力線を半定量的に表現した現象論的模型と考えられている。
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