履行の強制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 14:30 UTC 版)
債務の履行がなお可能であれば、債権者は履行請求権を有する。これは、あくまで「債務を履行せよ」と請求する権利である。 債務者がその請求に従えばそれでよいが、従わない場合もある。そうした場合に債務者の意思を無視して、あるいは心理的な強制を与えることによって債務の内容を実現する方法がある。これが「現実的履行の強制」、または「強制履行」といわれる制度で、民事執行法に規定されている。なおコモン・ロー体系においてはこのような制度を設けず、損害賠償を原則とする法制度もある。 債務者が任意に債務を履行しない場合には、債務者の帰責事由を問わず裁判所に「履行の強制」を請求できる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、履行の強制はできない(414条1項ただし書)。なお自然債務も参照。 強制履行の態様は、強制する債務の内容に応じて様々である。 ある物の引渡しを内容とする債務においては、債権者が裁判を提起して勝訴し、債務名義を得て強制執行を行う。動産の場合には、裁判所の執行官が目的物を債務者から取り上げて、債権者へ引渡す(民事執行法169条)。 不動産や船舶の場合には、執行官が債務者の占有を解いて、債権者に占有させる(民事執行法168条)。 金銭債務においては、債務者の財産に対して差押えを行い、競売にかけ、その代金から債務の弁済を受けることになる。 法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。(民法414条2項、民事執行法174条) 上記以外の場合で、債務者自らが何らかの行為をすることが内容となっている債務で、債務の性質が強制執行を許さない場合については、直接強制はできない。(民法414条1項)なぜなら奴隷的拘束を禁じた憲法18条に反するからである。そこで債務者以外の者に行為させ、それにかかった費用を債務者に負担させる代替執行(民法414条2項、民事執行法171条)や間接強制(民事執行法172条)が用いられる。 履行不能の場合にこの手段を採ることは不可能である。2017年の改正民法では、債務の履行が「契約」「その他の債務の発生原因」及び「取引上の社会通念」に照らして不能であるときは、債権者はその債務の履行を請求することができないと明文化した(412条の2第1項)。
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