安良川の爺スギとは? わかりやすく解説

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安良川の爺スギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/14 05:05 UTC 版)

安良川の爺スギ。2023年10月24日撮影。

安良川の爺スギ(あらかわのじいスギ[† 1])は、茨城県高萩市安良川に鎮座する八幡宮境内に生育する、国の天然記念物に指定されたスギ巨樹である[1][2][3][4]

国の天然記念物のスギとして最初に指定された11物件中の1件で[5]、指定日は1924年大正13年)12月9日である[1]。この初回指定時の11物件中、すでに3件は台風による倒伏で指定解除されており[† 2]、安良川の爺スギは現存する最も古い残り8件の国指定天然記念物のスギのひとつである。指定時期の早さからも分かるように、古くから著名なスギであり[6]、かつては茨城県下のみならず全国有数の[3]スギの巨木であったが、落雷などの影響により主幹内部に空洞が生じて樹勢が衰えたことに加え、枯死した主幹最頂部の10メートルほどが切除されたため指定当時の面影は失われている[7][8]

解説

安良川の
爺スギ
安良川の爺スギの位置
1955年(昭和30年)頃の安良川の爺スギ。

安良川の爺スギのある八幡宮 (高萩市)は、茨城県北部の高萩市中心市街地西側の標高約40メートルの高台にあり、境内の東側に高萩市立高萩小学校が立地し、周辺は住宅地が広がっている[2]。国の天然記念物に指定された安良川の爺スギは、八幡宮の拝殿に向かって左後方に隣接して生育しており[9]、樹高は約35メートル、胸の高さでの幹周りは約10メートルである[7]

八幡宮境内参道沿いを中心にスギの巨樹が多数あるが、爺スギはそれらの中で最も樹齢が高く、環境省自然環境局の巨樹・巨木林データベースによれば、地推定樹齢300年以上[10]茨城県教育委員会や高萩市役所の公式サイトなどでは約1,000年といわれる老樹であり[11]、伝承によれば当八幡宮は源義家前九年の役の帰洛の際、すでに「祖父杉」「祖母杉」と呼ばれる2本のスギがあったと伝えられており[12]、祖母杉はその後枯死したため祖父杉だけが残り、1924年大正13年)に国の天然記念物に指定されたときには爺スギだけであったという[2]

爺スギの前に設置されている石像は杉の幹にヘビが巻き付いた姿を模したものであるが、これはその昔、この地域の子供たちの間で、息を止めて爺スギの周囲を3周まわると白蛇が現れて願い事を叶えてくれるという言い伝えがあったことに因んだものである[13]。天然記念物に指定された当時の樹高は約40メートルもあり、根元の前と後ろでは約60センチメートルの段差があり、その中間地点から1.5メートル上方の幹囲は約9メートル、高さ約3.6メートルの位置から特徴的な太い枝が出ていることが指摘されている[3][4][9][14]

指定された当時、すでに先端部は枯れ始めていたが、1990年代初頭の時点で頂部先端の枯死部分が大きくなり目立ち始め、さらに主幹の裏側に大きな穴が生じるなど樹勢が衰えはじめた[2]。茨城県林業試験場茨城県教育委員会が詳しく調査したところ、樹勢の衰えは落雷が主な原因と考えられ、根元付近が空洞化し、主幹部も5分の1しか生きておらず、このまま何もせず放置すると早い段階で枯死してしまうことが判明した[11]

また枝などが先端部から徐々に枯死すると、そこからが落下したり、強風により折れた枝が飛ばされ、すぐ脇にある本殿や拝殿など文化財建造物へ衝突し破損する可能性があり、さらに参拝者への人的被害が起きる恐れもあるため、スギ全体を伐採するか、何らかの方法による保存を進めるべきかの論争が起こった[8][10]

関係者の協議の結果、頂部の枯死した先端部分のみを切除して保存、延命させることが決まり、高萩市と茨城県だけでなく、本樹は国の天然記念物であることから国の予算も投入され、先端部の10メートルが切除され[8]、倒伏防止のため3方向に固定ワイヤーが張られた[11]。一時は枯死の危機に瀕した安良川の爺スギであるが、このような経緯のため、幹をやや傾かせるなど往時の姿ではないものの、今日では適切な保護管理により樹勢がやや持ち直している[10]

高萩市では安良川の爺スギから切除された材木を再利用して作られた「爺杉ボールペン」をふるさと納税の返礼品のひとつとして活用している[15]

交通アクセス

所在地
  • 茨城県高萩市安良川1173[11]
交通

脚注

注釈

  1. ^ 爺の読み仮名を「じじ」とする資料もあるが、文化庁の国指定文化財データベースおよび茨城県教育委員会ホームページでの読み仮名は「じい」であり、本記事での読み仮名もそれに倣った。
  2. ^ 初回指定11件のスギのうち指定解除されたものは次の3物件。いずれも台風の強風により倒伏したため解除された。1.北般若の毘沙門スギ富山県高岡市)2.妙見の大スギ(兵庫県養父市)3.手野のスギ熊本県阿蘇市

出典

  1. ^ a b 安良川の爺スギ(国指定文化財等データベース) 文化庁ウェブサイト、2023年11月14日閲覧。
  2. ^ a b c d 鈴木 1995, p. 379.
  3. ^ a b c 本田 1957, p. 97.
  4. ^ a b 文化庁文化財保護部監修 1971, p. 107.
  5. ^ 本田 1957, pp. 93–122.
  6. ^ 帝国森林会 1962, p. 104.
  7. ^ a b 鈴木 1995, p. 376.
  8. ^ a b c 渡辺 & 1999}, p. 97.
  9. ^ a b 常陽芸文 1986, p. 36.
  10. ^ a b c 安良川の爺スギ 巨樹・巨木林データベース 環境庁自然環境局ウェブサイト、2023年11月14日閲覧。
  11. ^ a b c d 安良川の爺スギ いばらきの文化財 茨城県教育委員会ウェブサイト、2023年11月14日閲覧。
  12. ^ 帝国森林会 1962, pp. 103–104.
  13. ^ 八幡宮設置の現地案内板による。
  14. ^ 帝国森林会 1962, p. 103.
  15. ^ 爺スギボールペン(ケース付き)ふるさとチョイス・返礼品 高萩市のふるさと納税 株式会社トラストバンク/TRUSTBANK, Inc. 2023年11月14日閲覧。
  16. ^ a b 安良川八幡宮の爺杉 – 高萩市観光協会公式ホームページ。2023年11月14日閲覧

参考文献・資料

  • 加藤陸奥雄他監修・鈴木昌友、1995年3月20日 第1刷発行、『日本の天然記念物』、講談社 ISBN 4-06-180589-4
  • 本田正次、1957年12月25日 初版発行、『植物文化財 天然記念物・植物』、東京大学理学部植物学教室内 本田正次教授還暦記念会
  • 文化庁文化財保護部監修、1971年5月10日 初版発行、『天然記念物事典』、第一法規出版
  • 帝国森林会 編、1962年12月10日 発行、『日本老樹名木天然記念樹』、大日本山林会 全国書誌番号:63002775
  • 大和田智夫・菊地清治、1986年12月1日 発行、『常陽藝文(12月号)特集・茨城の天然記念物』、財団法人 常陽藝文センター 全国書誌番号:00040665
  • 渡辺典博、1999年3月15日 初版第1刷、『巨樹・巨木 日本全国674本』、山と渓谷社 ISBN 4-635-06251-1

関連項目

外部リンク

座標: 北緯36度42分53.2秒 東経140度42分12.4秒 / 北緯36.714778度 東経140.703444度 / 36.714778; 140.703444



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