大統領制と議院内閣制
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 09:16 UTC 版)
権限が分離されていても各権力を担う構成員が同じであれば権力分立は意味をなさない。そのため、権力の分離の要素として人の分離、つまり兼職の禁止が挙げられる。 但し立法と行政の関係について、アメリカ型の大統領制においては相互の抑制均衡を重視し厳格な分立をとるのに対し、議院内閣制においては相互の協働関係を重視するため緩やかな分立にとどまる。 アメリカ型の大統領制は、立法権と行政権を厳格に独立させるもので、行政権を担う大統領と立法権を担う議員をそれぞれ個別に選出する政治制度を採っている。厳格な分立の下、議員職と政府の役職とは兼務できず、政府職員は原則として議会に出席して発言する権利義務もないことなどを特徴としている。大統領が任期途中に議会による不信任により辞職することもなく、逆に大統領によって議会が解散されることもない。 これに対して議院内閣制では、議会が選出した首相が組閣して、内閣が行政権を担い、内閣は議会に対して政治責任を負い、間接的に国民に対しても政治責任を負う。議院内閣制では行政権を担う内閣と立法権を担う議会が一応は分立しているものの、民主主義的要請から権力分立は緩やかなものとなっている。つまり、内閣の首班(首相)は議会から選出され、内閣は議会(特に下院)の信任を基礎として存立することとして行政権の民主的コントロールを行う。内閣の構成員たる大臣はその多くが議員であり、内閣には法案提出権が認められ、大臣は議会に出席する権利義務を有することなどを特徴とする。 アメリカにおいても20世紀の行政国家化に伴って大統領が立法を主導し、司法に対しても一定の影響を与えているとされ、厳格な三権分立は緩やかなものとなっている。しかし、大統領の所属政党と上院あるいは下院の支配政党が異なる分割政府の状態を生じた場合にはやはり厳格な権力分立が顕在化することになるが、アメリカ合衆国の政治制度は、長い歴史的経過を経てこの分割政府の常態化を前提としつつ、政治運営や立法活動が複雑な駆け引きの下に行われ、盛んな利益集団の活動を背景として大統領や連邦議会議員が利害調整を行っていくという点に特質を持つに至ったものと考えられている。 立法と行政の関係について、大統領制の下では大統領と議会とは別々に選出されるため民意は二元的に代表されるのに対し(二元代表制)、議院内閣制では議会のみが選挙により選出されて内閣はそれを基盤として成立するため民意は一元的に代表される(一元代表制)。この点から議院内閣制のほうが権限の委任関係は明白となるため、立法と行政との関係を円滑に処理するという点においては、より簡単な政治モデルであるとされる。 なお、立法・行政・司法間の三権分立とは異なるが、両院制における両院議員の兼職禁止も権力分立における人の分離として理解することができるとされる。
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