偏微分方程式論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/13 01:23 UTC 版)
ヒルベルト空間は偏微分方程式を調べる基本的な道具である。即ち、楕円型線型方程式のような偏微分方程式の多くのクラスでは、考える関数のクラスを拡張して弱解と呼ばれる超関数解を考えることができるが、弱解の定式化(弱定式化)の多くはヒルベルト空間を成すソボレフ関数のクラスを含むものになっているのである。解を求めたり、あるいはしばしばより重要な、与えられた境界条件に対する解の存在および一意性を示したりする解析学的な問題が、適当な弱定式化によって幾何学的問題に還元される。楕円型線型方程式に対して、かなりのクラスの問題が一意的に解けることを保証する幾何学的結果の一つがラックス・ミルグラムの定理である。この方法論は、偏微分方程式の数値解法に対するガレルキン法(英語版)(有限要素法の一つ)の基盤をなしている。 典型的な例が、R2 の有界領域 Ω におけるポアソン方程式 −Δu = g のディリクレ境界問題である。弱定式化は、境界上で消えている Ω 上連続的微分可能な任意の関数 v に対して ∫ Ω ∇ u ⋅ ∇ v = ∫ Ω g v {\displaystyle \int _{\Omega }\nabla u\cdot \nabla v=\int _{\Omega }gv} を満たすような関数 u を求めることからなる。これは、u およびその弱偏導関数がともに境界上で消えている Ω 上の自乗可積分関数となるような関数 u からなるヒルベルト空間 H10(Ω) の言葉で書き直すことができて、問題はこの空間 H10(Ω) の任意の元 v に対して a ( u , v ) = b ( v ) {\displaystyle a(u,v)=b(v)} を満たすような u を空間 H10(Ω) の中で求めることに帰着される。ただし、a および b はそれぞれ a ( u , v ) = ∫ Ω ∇ u ⋅ ∇ v , b ( v ) = ∫ Ω g v {\displaystyle a(u,v)=\int _{\Omega }\nabla u\cdot \nabla v,\quad b(v)=\int _{\Omega }gv} で与えられる連続な双線型形式および連続な線型汎関数である。ポアソン方程式は楕円型だから、ポアンカレの不等式から双線型形式 a が強圧的であることが従う。故に、ラックス・ミルグラムの定理は、この方程式の解の存在と一意性を保証する。 多くの楕円型偏微分方程式に対して同様のやり方でヒルベルト空間による定式化ができるので、それ故にラックス・ミルグラムの定理はそれらの解析における基本的な道具となる。同様の方法は抛物型偏微分方程式やある種の双曲型偏微分方程式に対しても、適当な修正を施せば通用する。
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