伝統的小篆との衝突
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 05:48 UTC 版)
書道用・篆刻用書体としての小篆は『説文解字』などしかるべき文献が基準にあり、字形が大きく現状と異なっても手を加えることはしない。また当時存在しなかった字は、相当する別字で代用するのが普通である。 造字行為はよほどの理由がない限り避けるべきとされ、現在も「絶対にやるべきではない」「やむを得なければやってもよい」「こだわらず自由にやってもよい」と人によって許容範囲が大きく異なるデリケートな問題となっている。 一方、篆書体フォントは字形に対してはかなり自由であり、『説文解字』の字形を基準とすると「間違い」とされるような字形が通用していることが少なくない。 また他の小篆の字や隷書・楷書の形を参考にしたり、仮名を小篆風に仕立てるなどして大量の造字を行い、「楷書風の小篆」「新字体の小篆」「仮名の小篆」「アルファベット・アラビア数字などの小篆」などといった歴史的に有り得ないはずの文字を生み出している。 一見すると篆書体フォントの制作態度はいい加減であるように思えるが、そう解釈すべきではない。篆書体フォントはあくまでパソコン用のフォントであるため、その制作は「デザイン」としての側面を持ち、『説文解字』のような一つの基準に縛られる必然性が必ずしもあるわけではない。 また実用書体として作られているため、字形が全く現在の書体と似ても似つかなかったり、また字そのものがないなどの現象が多発する篆書体そのままを使用することは出来ない。また姓名・会社名を記す以上、日本独自の字形・文字である新字体や仮名に対する対応も必要になる。伝統と歴史を重視する書道用・篆刻用書体の小篆とは、立場も存在目的も異なるのである。 このようなことから「篆書体フォント」はあくまで小篆のデザインを実用本位で模倣した一種の装飾フォントであり、伝統的な「小篆」とは違う。
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