仕着せと家事使用人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 00:22 UTC 版)
家事使用人、特に女性使用人は特定の装いで描写される。一般にメイド服として知られるこの服装が定着したのは19世紀になってからのことである。それ以前の女性家事使用人は既製服が一般的でなく、衣服が高価であったため、雇い主が着古した服を身につけることも多かった。それで、しばしば雇い主とも使用人とも面識の無い人間から見た場合、どちらが雇い主であるのか分からず混乱を生じる場合があった。19世紀に急速に増加した中流階級、特にその下層においては立ち居振る舞い、教養などをとっても労働者階級に属する家事使用人たちとそれ程大きな差はなかったゆえであった。少なくとも、下層中流階級であれば地主貴族と労働者を比較した場合明らかに後者との距離の方が短かったことは否定できない。そこで、家事使用人の立場を明確にし、雇い主との差別化を図るために考案されたのが、仕着せ、いわゆる「メイド服」である。 メイド服には午前用と午後用の二種類が存在し、一般に知られている、黒のドレスに白いエプロン、白いキャップという服装はフォーマルに合わせた午後用のものである。もう一方の午前用の仕着せは淡い青かピンクのプリント地の服である。どちらの場合も家事使用人としての立場を明示的に示すための記号としての役割を、作業着としての性質とともに合わせ持っており、カチューシャなどのアクセサリー類が存在する余地はなかった。これらの服は原則的に家事使用人の自弁とされており、雇用に際して前もって準備することが求められていた。これらの服を、替えも含めて準備するとなるとかなり纏まった金額が必要となり、娘を働きに出す労働者階級の家庭にとっては大きな負担となった。幸運に恵まれれば慈善家からの援助を受ける事もできたが、多くの場合は本人が見習いを兼ねてパートタイムの家事労働で初期費用を賄う必要があった。都市部などでは互助会などによる積み立てを利用する事もあった。 男性使用人の場合は女性使用人とは異なり、基本的に仕着せは雇い主によって支給されていた。これは中流階級にとって女性使用人は雇っていて当然の存在と見做されていたのに対し、男性使用人は給与が高額であったために中流でも上層に位置する家庭でしか雇用できず、華美な仕着せによって積極的に存在を示すべきものだったためである。このような男性使用人、特に従僕には仕着せに加え、髪粉なども支給されていた。
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