リンダ問題とその説明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/28 19:16 UTC 版)
私は特にこの事例[リンダ問題]を気に入っている。合接された表現の方が確率は低くなる事を、私は理解しているのであるが、それにもかかわらず、私の頭の中では小さなホムンクルスが飛び跳ね回り、私に向かって「でも、リンダが単なる銀行窓口係であるはずが無い。問題文を読みなさい」と叫ぶのは、興味深い現象である。 スティーヴン・ジェイ・グールド 合接の誤謬の具体例として、必ずと言っていい程に引き合いに出されるのが、エイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンが発案したリンダ問題である。 リンダは31才、独身、率直な性格で、とても聡明である。大学では哲学を専攻した。学生時代には、差別や社会正義といった問題に深く関心を持ち、反核デモにも参加した。 どちらの可能性がより高いか? リンダは銀行窓口係である。 リンダは銀行窓口係で、フェミニスト運動に参加している。 この質問を受けた人の大多数が選択肢2を選んだ。しかしながら、2つの事象が同時に(in conjunction:合接して)発生する確率は、そのどちらか1つの事象が発生する確率よりも、低いか等しいかのいずれかである。形式的には、2つの事象AとBについて、不等式を次のように書くことができる。 Pr ( A ∧ B ) ≤ Pr ( A ) {\displaystyle \Pr(A\land B)\leq \Pr(A)} and Pr ( A ∧ B ) ≤ Pr ( B ) {\displaystyle \Pr(A\land B)\leq \Pr(B)} 説明の一例として、リンダが銀行窓口係である確率は非常に低いと考えて、Pr(リンダは銀行窓口係)=0.05として、そして、リンダがフェミニストである確率は高いと考えて、Pr(リンダはフェミニスト)=0.95とする。両者は独立した事象だとすると、Pr((リンダは銀行窓口係)かつ(リンダはフェミニスト))=0.05×0.95になる。つまり0.0475であり、これはPr(リンダは銀行窓口係)よりも低確率である。 これについて、トベルスキーとカーネマンは、次のように主張している。大多数の人がこの問題を誤答する原因は、このような判断をする際に、代表性ヒューリスティック(特定のカテゴリーに典型的と思われる事項の確率を過大に評価しやすい意思決定プロセス)を用いるからである。選択肢2は、数学的に考えれば蓋然性は低いのは明らかである。しかし、選択肢2の内容を読むと、問題文が提示するリンダの描写として、それは典型的・象徴的であるという印象を受けるのである。 また、トベルスキーとカーネマンは以下のようにも説明している。描写に具体性があると、代表性ヒューリスティックの効果によって、蓋然性が高いような錯覚を覚えるのであるが、しかし、実際には、限定的条件が追加されると、その分だけ蓋然性は低下する。この点において、合接の誤謬は、「誤解を招くような極端例」(misleading vividness)や 「滑り坂論法」(slippery slope)といった誤謬に類似していると指摘できる。近年、カーネマンは、合接の誤謬は、「データ数の軽視」(extension neglect)の一種であるとする見解を述べている。
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