ラマンサイドバンド冷却
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/01 13:26 UTC 版)
「ラマン冷却」の記事における「ラマンサイドバンド冷却」の解説
この冷却方式では磁気光学トラップ(英語版)に閉じ込められた原子から始める。そこで、原子群の重要な部分がトラップされるように光格子を傾斜させる。光格子を形成するレーザーが十分に強力なら、各サイトは調和トラップと見做すことができる。原子群は基底状態にはないため、調和振動子の励起準位にトラップされている。ラマンサイドバンド冷却の目的は、原子に格子サイト内の調和ポテンシャルの基底状態をとらせることである。 量子数 F=1 の基底状態が3重縮退 m=-1, 0, 1 しているような2準位原子を考える。磁場を印加すると、ゼーマン効果により m の縮退が解ける。その値を、 m=-1 と m=0 との間および m=0 と m=1 とのゼーマン分裂が格子により形成された調和ポテンシャルの準位間の間隔に厳密に一致するよう調整する。 ラマン過程を用いることにより、原子を磁気モーメントが1つ小さく、振動準位も1つ下の状態に移すことができる(図中赤矢印)。その後、格子ポテンシャルの最低振動状態の原子(ただし m ≠ 1 {\displaystyle m\neq 1} )を m=1 状態に光ポンピングする( σ + {\displaystyle \sigma _{+}} ビームと π {\displaystyle \pi } ビームの役割)。原子の温度はビーム周波数に比べて十分に低いため、このポンピング過程中に原子の振動状態が変化する確率は低い。したがって、原子はより低い振動準位になり、冷却が行われる。この、低い振動準位への移送を各ステップで効率的に行うためには、強度やタイミングなどのレーザーのパラメータを注意深く調整する必要がある。一般的に、カップリング強度(ラビ周波数)は振動準位に依存するため、これらのパラメータは振動準位が違えば異なる。このナイーブな描写は、この遷移を起こす光子の反跳(英語版)の存在によりさらに複雑化する。この複雑さはラム–ディッケ領域と呼ばれる領域で冷却を行うことにより一般的には避けることができる。この領域では、原子が強固にトラップされているためその運動量は光子の反跳によって実効上変化しない。この状況はメスバウアー効果に似ている。 この冷却方式により、光学的技術のみを用いるよりも高密度の原子群を低温にすることができる。例えば、ボース=アインシュタイン凝縮を実現するにはまだ不十分であるが、その種の実験の出発点とすることはできる。例えば、セシウムのボース=アインシュタイン凝縮を初めて実現した実験ではラマンサイドバンド冷却が最初のステップとして用いられている。
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