ヤヌスとの軌道の共有
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/31 16:59 UTC 版)
「エピメテウス (衛星)」の記事における「ヤヌスとの軌道の共有」の解説
エピメテウスはヤヌスと公転軌道を共有している。ヤヌスとエピメテウスの軌道の半径は、平均して 50 km しか離れておらず、これは衛星の直径より小さい。内側を周回する衛星の方が公転速度が速く、一日あたりおよそ 0.25° だけ外側の衛星より先に進むため、次第に外側の衛星に追いついていく。内側の衛星はそのままでは衝突してしまうように思われるが、数万kmまで接近すると重力相互作用により、内側の衛星の運動量が増加し、逆に外側の衛星の運動量は減少する。 直感的に解釈すると、内側の衛星が外側の衛星に追い付きそうになった時、公転方向の前方にいる外側の衛星からの重力に引かれて運動量が増加し、その結果として軌道半径は大きくなる。逆に外側の衛星は追いついてきた内側の衛星から公転方向後方に引かれることになるため運動量が減少し、軌道半径は小さくなる。その結果、内側の衛星と外側の衛星が軌道を「交換」することとなる。追いつかれそうになった衛星は内側の軌道へ移って公転速度が大きくなり、追いつきそうになった衛星は外側の軌道へ移って公転速度が小さくなるため、2つの衛星は再び離れていくことになる。このため、両者の距離は1万kmより接近することはない。エピメテウスとヤヌスはこのような軌道の交換を繰り返し、衝突することなく安定に公転している。両者が遭遇する度に、エピメテウスの軌道半径は約 80 km、ヤヌスの軌道半径は約 20 km 変化する。変化量が異なる理由は、ヤヌスがエピメテウスよりも4倍ほど質量が大きく、軌道の変化の影響を受けにくいためである。 2つの衛星が軌道を交換してから約4年で、再び内側の衛星が外側の衛星に追いつき軌道の交換が起こるため、軌道の交換は約4年ごとに起こる。例えば最近では2006年1月21日に確認されており、2010年、2014年、2018年に発生する。こういった軌道共有関係にある太陽系内の天体は、他には発見されていない。 この軌道の「交換」という現象は、軌道力学の観点から見るとエピメテウスとヤヌスが 1:1 の平均運動共鳴を起こしていることを意味する。円制限三体問題において土星を中心天体とし、同程度の質量を持つ天体2つが円軌道で公転しているという状況である。土星を中心とした適切な角速度の回転座標系に乗ってエピメテウスとヤヌスの運動を記述すると、両者は自身の馬蹄形軌道を往復する運動を行っていることが分かる (図参照)。 お互いの馬蹄形軌道の先端で遭遇して運動量をやり取りして引き返していく様子が、実効的に軌道を「交換」している状態に相当する。先述の軌道半径の変化の違いも、エピメテウスとヤヌスの質量の違いを反映した馬蹄形軌道の大きさの違いに対応している。両者の質量が同じであれば馬蹄形軌道は回転座標系で見て対称な形状となり、遭遇の度の軌道半径の変化量もお互いに同じになる。一方で片方が極端に重い場合は重い天体の馬蹄形軌道は極めて小さくなり、回転座標系では軽い天体が 360° に及ぶ馬蹄形軌道を往復するような運動をすることになる。この場合は軌道を「交換」しているというよりは、慣性系で見ると軽い天体が重い天体に接近する度に内側の軌道と外側の軌道を行き来しているような運動をすることになる。
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