メタセシス反応を触媒するカルベン錯体の開発
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「メタセシス反応」の記事における「メタセシス反応を触媒するカルベン錯体の開発」の解説
1964年にエルンスト・オットー・フィッシャーらによってカルベン錯体が単離された。 1980年にリチャード・シュロックらは、タンタルのカルベン錯体がメタセシス反応を触媒することを見いだした。更に、シュロックらは1990年にモリブデンのカルベン錯体が特に高活性であることを報告した。しかし、これらの錯体は反応性が極めて高いものの水や酸素に不安定で扱いにくいのが欠点であった。 1992年になるとロバート・グラブスらは、水や酸素に対して比較的安定なルテニウムカルベン錯体がメタセシス反応に有効であることを報告した。これ以来、比較的小分子の有機化学の分野でも、様々な合成への適用が報告されるようになった。1995年には第1世代グラブス触媒として知られるベンジリデンルテニウム錯体が報告された。さらに1998年から1999年にかけて、イミダゾリン-2-イリデン誘導体を配位子とするルテニウムカルベン錯体がヴォルフガンク・ヘルマンら、スティーヴン・ノランら、ロバート・グラブスらのグループによってほとんど同時に報告された。これらの錯体は第1世代グラブス触媒よりも触媒活性が高く、特に1999年にロバート・グラブスらにより報告された錯体が第2世代グラブス触媒として良く知られるようになった。 一方、第1世代および第2世代グラブス触媒を改良する研究も盛んに行われた。1999年にアミール・ホベイダらは第1世代グラブス触媒を改良した、再利用可能かつ大気中で取り扱い容易な錯体を報告した。更に2000年にはアミール・ホベイダらが報告すると共に、わずかに遅れてジークフリート・ブレッヘルトらも、全く同じ錯体を報告した。この錯体は第2世代グラブス触媒を改良した再利用可能かつ大気中で取り扱い容易な錯体であり、第2世代ホベイダ-グラブス触媒として知られている。その特徴として、反応性の高さは第2世代グラブス触媒には及ばないものの、電子密度の低い二重結合に対して有効であることが挙げられる。2002年にはこの種の研究における大きな成果が相次いで報告された。ブレッヘルトらは第2世代グラブス触媒を遙かに凌駕する高い反応性を持ち、かつ大気中での取り扱いが容易な錯体二種を立て続けに報告した。また、わずかに遅れて報告されたロバート・グラブスらによる錯体、及びカロール・グレーラによる錯体も同様に、第2世代グラブス触媒を改良しその反応性を飛躍させている。2002年に報告されたこれらの錯体はいずれも「活性種を発生させる段階を如何にして速め、反応性向上に結びつけるか」というコンセプトが共通しており、この分野において極めて激しい競争があったことが垣間見える。
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