ペンは剣(けん)よりも強(つよ)し
ペンは剣よりも強し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/02/28 07:53 UTC 版)
ペンは剣よりも強し(英: The pen is mightier than the sword 羅: Calamus Gladio Fortior)は、「独立した報道機関などの思考・言論・著述・情報の伝達は、直接的な暴力よりも人々に影響力がある」ということを換喩した格言である。
後述の作中本来の意味は「お前が剣を振るうより前に、処刑執行文書にサインをする方が早い」という権力の絶対性を示した格言であり、発言者のリシュリューはフランス王国宰相、つまり権力側の人間であり、この場合のペンとは令状や許可証(への署名)を指すとする説もある。[要出典][2]ウィクショナリー日本語版でもこれを原義としている。
起源
先行して似たような考えは様々な形態で表現されてきたが、文章としては英国の作家エドワード・ブルワー=リットンが1839年に発表した歴史劇『リシュリューあるいは謀略(Richelieu; Or the Conspiracy)』[3][4]で作り出された[補足 1]。題材を17世紀フランス王国の宰相リシュリューにとってはいるものの、史実をある程度脚色したことをブルワー=リットンは前書きで断っている。
「日付やディテールについては(……)勝手気ままというわけではないが、多少自由にいじらせてもらった」[3]
表題のリシュリューのセリフは第2幕第2場に登場する。前後を含めて引用すると以下の通りである。[6]
(リシュリューは部下の司令官らによる自分の暗殺計画を発見するが枢機卿という聖職者の身分ゆえに武器をとることができない。)
フランソワ(リシュリューの配下の一人)
「しかしいま、猊下の部下たちは武器をもっております。枢機卿猊下」リシュリュー
「これは本当のことなのだ!—
まことの技倆の持ち主の手におさまるならば、ペンは剣よりも強し。
見よ、この魔法使いの杖を!—
それ自体は何の役に立たん、無だ!—
魔法使いの魔法は、それを自在に操る手から繰り出されるのだ。
帝王(カエサル)の力を奪い、これを追い払い、騒がしい大地を息の根を止める魔法は、だ!だから剣を捨てよ。—
そんなものがなくとも国家は救われる!」
評価
1870年に、文学批評家エドワード・シャーマン・グールドは次のように書いている。「ブルワーは一握りの者にしか与えられない幸運に恵まれた。彼はいつまでも歴史に残る名セリフを書いたのだ」。[4]。
1888年頃、著作者チャールズ・シャープは、この一節が繰り返し使われたことで、それが「ありふれた、陳腐なものになってしまう」ことを危惧した[7]。
1897年に開館したアメリカ合衆国議会図書館のトマス・ジェファーソンビルの壁面にはこの一節が飾られている[8][補足 2]。
"Whoever said the pen is mightier than the sword obviously never encountered automatic weapons." ~ General Douglas MacArthur[9]、一般には「誰かは知らんが、『ペンは剣よりも強し』と言った人間は、おそらく自動小銃を見たことがないんだろう。」 ― ダグラス・マッカーサー将軍、と訳す。[補足 3]
類似する言い回し
「言論は暴力に勝る」という考えは古今東西に多数の先行例を有し[11]、類似する言い回しには以下のようなものがある。
- 「言葉は剣よりも強し」(アッシリアの賢者アヒカル)[12]
- 「舌は刃より強い」(エウリピデス)[11][13]
- 「武器は説得に屈服する」(キケロ「義務について」)
- 「神の言葉は両刃の剣よりも鋭い」(「新約聖書: ヘブライ人への手紙」)[14][15][補足 4]
- 「学者のインクは殉教者の血よりも神聖である」(ムハンマド)[16][17]
- 「智者のペンよりも恐ろしい剣はない」(エラスムス)[18][19]
- 「ペンの一撃は剣の一撃よりも深い」「それゆえに、ペンは剣よりも残酷であることは明白である」(ロバート・バートン)[20] [11]
- 「剣をつけた多くの者がガチョウ羽のペンを恐れる」(シェークスピア「ハムレット」)[11][21]
- 「四つの敵意ある新聞のほうが千の銃剣よりも恐ろしい」「世界には二つの力しかない。サーベルと精神というふたつの力である。そして最後には必ずサーベルは精神に打倒される」(ナポレオン・ボナパルト)
- 「我我は互に憐まなければならぬ。況や(いわんや)殺戮を喜ぶなどは、――尤も(もっとも)相手を絞め殺すことは議論に勝つよりも手軽である。我我は互に憐まなければならぬ。ショオペンハウエルの厭世観の我我に与えた教訓もこう云うことではなかったであろうか?」(芥川龍之介「侏儒の言葉」)[補足 5]
脚注
補足
- ^ この戯曲は1839年3月7日ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでウィリアム・チャールズ・マクレディ主演で初演され[5]、マクレディは初演の成功は明白だと信じていた。ヴィクトリア女王が3月14日の上演を観覧している[5]。
- ^ その場所は、エントランスパビリオン2階南側廊下の西側の壁。
- ^ またマッカーサーは、M1ガーランド半自動小銃を「The Garand rifle . . . is one of the greatest contributions to our armed forces.=我が軍に対する最も偉大な貢献の1つ」と評したとされる[10]。
- ^ こちらも参照: ヨハネの黙示録 1:16, 2:16, 19:15; エフェソの信徒への手紙 6:17; 旧約聖書: 知恵の書 18:15; イザヤ書 11:4; 49:2
- ^ 意訳: ショーペンハウエルにおける厭世観の言うようにこの世は辛く苦しい。だから我々は互いに憐れみ助け合わなければならない。悪魔の如く虐殺を喜ぶなかれ。言葉によらず殺害で勝利とするのも愚かしいことである。(関東大震災における日本民族による朝鮮民族・中国民族虐殺と、憲兵による大杉栄ら殺害への言及[22])
出典
- ^ Who first said 'The pen is mightier than the sword'?2015年1月9日BBC、2016年6月12日閲覧
- ^ https://tenmei.cocolog-nifty.com/matcha/2016/10/post-3c31.html
- ^ a b Bulwer-Lytton 1839
- ^ a b Gould 1870, p. 63
- ^ a b Macready 1875, p. 471
- ^ Bulwer-Lytton 1892, p. 136
- ^ Sharp 1888, p. 67
- ^ Reynolds 1897, p. 15
- ^ https://x.com/USArmy/status/230694418347352064
- ^ https://www.nramuseum.org/guns/the-galleries/wwii,-korea,-vietnam-and-beyond-1940-to-present/case-40-wwii-more-arms/us-springfield-m1-garand-semi-automatic-rifle.aspx
- ^ a b c d “About the history and origins behind the famous saying the pen is mightier than the sword.”. Trivia-Library.com. 2016年6月9日閲覧。
- ^ Matthews, Victor and Benjamin 2006, p. 304
- ^ Graves 1935, p. 122
- ^ “New American Bible, Hebrews 4:12”. Washington, DC: Confraternity of Christian Doctrine, Inc. (2002年). 2006年11月13日閲覧。
- ^ ヘブル人への手紙(口語訳)#4:12
- ^ “Unparalleled Scientific Legacy of Islam”. Story of Pakistan (2003年7月26日). 2014年1月20日閲覧。
- ^ http://www.islamset.com/heritage/philos/Conclusion.html
- ^ Re: Pen vs. sword 参照元: Titelman, Gregory Y. (1996). Random House Dictionary of Popular Proverbs and Sayings. New York: Random House
- ^ “the pen is mightier.....”. Quoteland.com (2003年3月). 2006年11月15日閲覧。
- ^ Burton, Robert (as Democritus Junior). Karl Hagen: “The Anatomy of Melancholy: What it is, with all the kinds, causes, symptoms, prognostics, and several cures of it”. Project Gutenberg. 2016年6月9日閲覧。
- ^ Shakespeare, William. “The Tragedy of Hamlet, Prince of Denmark”. opensourceshakespeare.org. 2006年11月15日閲覧。
- ^ 川端俊英 2015, p. 58
参考文献
- Sir Edward Bulwer Lytton (1839). Richelieu; Or the Conspiracy: A Play in Five Acts. (second ed.). London
- Lord Lytton (1892). The Dramatic Works of Auston. IX. New York: Peter Fenelon Collier
- Gould, Edward Sherman (1870). Good English. New York: W.J. Widdleton
- Macready, William Charles (1875). Sir Frederick Pollock. ed. Macready's Reminiscences, and Selections from His Diaries and Letters. New York: MacMillan and Co.
- Sharp, Charles (1888). The Sovereignty of Art. London: T. Fisher Unwin
- Reynolds, Charles B (1897). Library of Congress and the Interior Decorations: A Practical Guide for Visitors. New York, Washington, St. Augustine: Foster & Reynolds
- Matthews, Victor and Benjamin, Don (2006). Old Testament Parallels (3rd ed.). Paulist Press
- Graves, Robert (1935). Claudius, the God and His Wife Messalina.. H. Smith and R. Haas
- 川端俊英『人権からみた文学の世界【大正篇】』ゴマブックス、2015年1月8日。ASIN B00RXHZ4M2。
外部リンク
ウィクショナリーには、ペンは剣よりも強しの項目があります。
ペンは剣よりも強し
出典:『Wiktionary』 (2014/04/09 15:32 UTC 版)
成句
出典
- 19世紀の政治家・小説家のブルワー=リットンの戯曲「リシュリュー」に用いられる"the pen is mightier than the sword"の翻訳。なお、ラテン語訳のひとつ"Calamus gladio fortior"は、慶応大学や開成学園のモットーとなっている。
翻訳
- デンマーク語: pennen er mægtigere end sværdet (da)
- ドイツ語: die Feder ist mächtiger als die Klinge
- 英語: the pen is mightier than the sword
- スペイン語: la pluma es más poderosa que la espada
- エストニア語: sõna vägi on suurem kui sõjavägi
- フィンランド語: kynä on miekkaa mahtavampi (fi)
- ノルウェー語: pennen er mektigere enn sverdet (no), pennen er mektigere enn sverdet (no)
- ポルトガル語: a caneta é mais forte que a espada (pt)
- ロシア語: что написано пером, не вырубишь топором
- スウェーデン語: pennan är mäktigare än svärdet (sv)
- テルグ語: కత్తి కన్నా కలం మిన్న (katti kannaa kalaM minna)
- トルコ語: kalem kılıçtan keskindir (tr)
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