ベクトル束の演算
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 04:18 UTC 版)
ベクトル空間に対する演算の多くは、それをファイバーごとに行うことによってベクトル束の演算に拡張することができる。 例えば、E が X 上のベクトル束のとき、x ∈ X におけるファイバー Ex をその双対ベクトル空間 (Ex)∗ に取り替えて、E の双対束 (dual bundle) と呼ばれる X 上のベクトル束 E* が定まる。厳密に言えば、E* は、x ∈ X, φ ∈ (Ex)* に関する対 (x, φ) 全体の成す集合として定義できる。E の局所的自明化の逆像の双対空間は E* の局所的自明化だから、双対束は局所的に自明である。これには双対ベクトル空間を取る操作が関手的であること(ここでは双対をとることと同型写像とが可換ということ)が鍵になっている。 (同じ体上の)二つのベクトル空間の上で行える関手的操作のほとんどは X 上のベクトル束 E, F の対に直接的に拡張することができる。いくつか例を挙げる。 E と F のホイットニー和 (Whitney sum) または直和束 (direct sum bundle) と呼ばれる X 上のベクトル束 E ⊕ F は、各点 x の上のファイバーがベクトル空間 Ex と Fx の直和 Ex ⊕ Fx となるものとして定義される。 同様に、テンソル積束 (tensor product bundle) E ⊗ F が、ファイバーごとにベクトル空間のテンソル積を用いることによって定義できる。 準同型束 (Hom-bundle) Hom(E, F) は、x におけるファイバーが Ex から Fx への線型写像全体の空間(Hom(Ex, Fx) または L(Ex, Fx) としばしば書かれる)であるようなベクトル束である。この束をこのように書いて便利に準同型束(あるいは Hom-束)と呼ぶのは、「Hom(E, F) の X 上の切断」と「E から F への X 上のベクトル束の準同型」とが同一視できるためである。 さらに、自己準同型束 Hom(E, E) の断面 s と関数 f: X → R が与えられると、点 x ∈ X 上のファイバーを線型写像 s(x) : Ex → Ex の f(x)-固有空間とすることで、固有束 (eigenbundle) を構成することができる。 双対束 E∗ は E と自明束 R × X との間の準同型束 Hom(E, R × X) に一致する。また、自然なベクトル束の同型 Hom ( E , F ) ≅ E ∗ ⊗ F {\displaystyle \operatorname {Hom} (E,F)\cong E^{*}\otimes F} が存在する。 これらの操作は、ベクトル空間の圏における操作の多くが関手的な仕方でベクトル束の圏における操作として意味を成すという、ベクトル束が持つ一般的な特徴を示す特定の例となっている。このことは滑らかな関手の言葉を用いて精緻化することができる。 もっと別な種類の操作として、原像あるいは引き戻し (pull-back bundle) 構成と呼ばれるものがある。ベクトル束 E → Y と連続写像 f: X → Y が与えられたとき、Y 上のベクトル束 E を f によって X 上のベクトル束 f ∗E へ「引き戻す」ことができる。つまり、x ∈ X 上のファイバーは、実質的に f (x) ∈ Y 上のファイバーになっている。これを使えば、ホイットニー和 E ⊕ F を X × X 上のベクトル束として対角線写像 X → X × X の引き戻しとして定義することもできる。
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