パリティ_(物理学)とは? わかりやすく解説

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パリティ (物理学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/06 04:29 UTC 版)

パリティ変換 (parity transformation) は、物理学において、空間座標のいくつかの成分の符号を反転させる操作である。パリティ反転 (parity inversion) とも呼ぶ。ただし、一般的な3次元においては、もっぱら空間座標の符号を3つとも反転することを指す:

パリティの二次元表現はお互いのパリティが入れ替わる一対の量子状態によって与えられる。しかしながら、この表現はいつもパリティがそれぞれ奇数か偶数である状態の線形結合へ還元することができる。パリティの全ての既約表現は一次元であると言える。

量子力学において、時空変換は量子状態に作用する。パリティ変換 P は量子力学におけるユニタリ演算子であり、状態 ψ(r) = ψ(−r) のように作用する。全体の位相はアンオブザーバブルであるため、P2ψ(r) = eψ(r) である必要がある。

ある状態のパリティを二度反転する演算子 P2は時空不変性を保ち、位相 eiφによってその固有状態を回転する内部対称性である。もし P2 が位相回転の連続 U(1) 対称群の要素 eiQ であるならば、 e−iQ/2 はこの U(1) の一部分であり、そのため対称性でもある。特に、同様に対称性であるP = Pe−iQ/2 と定義することができ、Pをパリティ演算子と呼ぶことができる。P2 = 1 でPは固有値±1を持つことに注意すること。しかしながら、そのような対称群が存在しないとき、全てのパリティ変換は±1以外の位相である固有値を持つ。

パリティ対称性の帰結

パリティがアーベル群 Z2を生成するとき、パリティの下で偶数または奇数となるように量子状態の線形結合を取ることができる(図を参照)。このようにそのような状態のパリティは±1である。複数粒子状態のパリティは各状態のパリティの積である。言い換えると、パリティは乗法的な量子数である。

量子力学において、ハミルトニアンはパリティ変換の下で不変量(対称性)である、もしPがハミルトニアンと可換であるなら。非相対論的量子力学では、これは例えばV = V(r) のようなスカラーであるすべてのポテンシャルについて起こる。それゆえポテンシャルは球対称である。次の事実は容易に証明できる:

  • |A> および |B> が同じパリティを持つならば、<A| X |B> = 0 である。ここで、X位置演算子である。
  • 状態 |Lについて、z軸射影 Lzを伴う軌道角運動量 LLz>、P|LLz> = (−1)L|LLz>。
  • [H, P] = 0 ならば、原子双極子遷移は反対のパリティの状態間でのみ起きる[1]
  • [H, P] = 0 ならば、H の非縮退固有状態もまたパリティ演算子の固有状態である。例えば、H の非縮退固有関数P またはPの符号が逆のものかのどちらかである。

H の非縮退固有関数のいくつかはパリティ Pの影響を受けず(不変で)、その他のものはハミルトニアン演算子とパリティ演算子が可換であるときただ符号を保存する:

= cΨ,

ここで c は定数で、 P固有値である。

P2Ψ = c.

場の量子論

場の量子論において以下の3つの条件が全て満たされている場合、全ての状態に対して固有パリティを定義することができ、このパリティはあらゆる反応において保存することとなる。

量子電磁力学はパリティを保存する理論の代表的な例である。 このことを示すためには、その作用はパリティ不変であり、量子化もパリティを破らないことを証明する必要がある。以下では簡単のため、正準量子化が用いられることを仮定する。このとき、その真空状態は量子化の構築によってパリティの下で不変である。作用の不変性はマクスウェル方程式の古典的不変性から得られる。正準量子化手続きの不変性は達成することができるが、消滅演算子の変換に依存することが分かる:

Pa(p, ±)P+ = −a(−p, ±)

ここで p光子運動量を表し、± はその偏光状態を表す。これは、光子は奇の固有パリティを持つことを意味する。 同様に全てのベクトル粒子は奇数の固有パリティを持ち、全ての疑ベクトル中間子は偶の固有パリティを持つことを示すことができる。

標準模型におけるパリティ

大域的対称性の固定

標準模型では弱い相互作用によってパリティ対称性は破れているが、その影響を無視できる状況下ではパリティが保存されるとみなすことができる。 パリティ演算子Pに対し、パリティが保存される理論では、ハミルトニアンHが、

脚注

  1. ^ Bransden, B. H.; Joachain, C. J. (2003). Physics of Atoms and Molecules (2nd ed.). Prentice Hall. p. 204. ISBN 978-0582356924 
  2. ^ Chinowsky, W.; Steinberger, J. (1954). “Absorption of Negative Pions in Deuterium: Parity of the Pion”. Physical Review 95 (6): 1561–1564. Bibcode1954PhRv...95.1561C. doi:10.1103/PhysRev.95.1561. 
  3. ^ Lee, T. D.; Yang, C. N. (1956). “Question of Parity Conservation in Weak Interactions”. Physical Review 104 (1): 254–258. Bibcode1956PhRv..104..254L. doi:10.1103/PhysRev.104.254. 
  4. ^ Wu, C. S.; Ambler, E; Hayward, R. W.; Hoppes, D. D.; Hudson, R. P. (1957). “Experimental Test of Parity Conservation in Beta Decay”. Physical Review 105 (4): 1413–1415. Bibcode1957PhRv..105.1413W. doi:10.1103/PhysRev.105.1413. 
  5. ^ 江才健 吳健雄: 物理科學的第一夫人 p.216 時報文化出版企業股份有限公司 ISBN 957-13-2110-9
  6. ^ Garwin, R. L.; Lederman, L. M.; Weinrich, M. (1957). “Observations of the Failure of Conservation of Parity and Charge Conjugation in Meson Decays: The Magnetic Moment of the Free Muon”. Physical Review 105 (4): 1415–1417. Bibcode1957PhRv..105.1415G. doi:10.1103/PhysRev.105.1415. 
  7. ^ Roy, A. (2005). “Discovery of parity violation”. Resonance 10 (12): 164–175. doi:10.1007/BF02835140. 
  8. ^ Muzzin, S. T. (19 March 2010). “For One Tiny Instant, Physicists May Have Broken a Law of Nature”. PhysOrg. 2011年8月5日閲覧。

参考文献


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