パスポートの発給制限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/05 20:15 UTC 版)
「海外渡航の自由」の記事における「パスポートの発給制限」の解説
海外渡航するには日本国旅券(パスポート)が必要であるが、旅券法第13条1項7号は「著しく、かつ、直接に日本国の利益または公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に対し、外務大臣が(法務大臣と協議の上)旅券発給を拒否できると規定している。 この規定が、海外渡航の自由を制限するものとして、憲法違反でないかについて争いがある。 A説旅券法第13条の基準は極めて漠然かつ不明確であり、このような不明確な基準で憲法の保障する権利を禁止する可能性があり違憲であるとする説 B説海外渡航の自由は精神的自由の側面も有するが、精神的自由そのものではなく合理的範囲で政策的な制約を受けるものであり文面上違憲とすることは相当でないが、そこに定める害悪発生の相当の蓋然性がないのに旅券の発給を拒否することは適用違憲になるとする説 C説外国旅行の自由は国際関係の見地から特別の制限を受けるとし、同号の規定する「行為」を原則として犯罪行為などの重大な違反行為に限定的に解して合憲とする説 D説外国旅行の自由は国際関係の見地から制限が認められるものであるとして合憲とし、裁判所の審査は外務大臣の決定に合理的基礎があるか否かについて判断されるとする説 判例は、公共の福祉のための合理的制限であり、合憲としている(帆足計事件、最大判昭和33・9・10民集12巻13号1969頁)。学説では旅券法の当該基準が不明確であることから、違憲の疑いが強いとする説が多数説となっており、拒否基準についてはより厳格かつ明確になるよう法改正すべきという見解が出されているが、海外渡航の自由は国際関係や外交関係にも関わることから、国の外交政策に基づく一定の裁量権を否定することはできないという点もあり検討課題とされている。 なお、最高裁判所は、旅券法が一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしている趣旨について「一般旅券の発給を拒否すれば、憲法二二条二項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保して、その恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨」であるとし「単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でない」と判示している(最判昭和60・1・22 民集第39巻1号1頁)。
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