テトラコルドと4度音程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/16 19:18 UTC 版)
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の記事における「テトラコルドと4度音程」の解説
第1幕への前奏曲の2小節目、ホ音から1オクターブ順次上昇する進行は、ホ―ヘ―ト―イ、ロ―ハ―ニ―ホという二つの音列に分割でき、これらの音程関係は半音―全音―半音で同一である。これは、古代ギリシアの音楽理論に始まる「テトラコルド」(「4本の弦」の意)の概念である。テトラコルドが顕著な例として、第1幕幕開けのコラールがあり、コラールの第1行が完全4度跳躍下行→完全4度順次上行、第2行が完全4度跳躍上行→完全4度順次下行となっており、同一のテトラコルドが反行形で対照をなしている。 テトラコルドそのものは音楽の基本的な枠組みであり、本作に限らず一般的に使用される概念である。しかし、本作の場合、テトラコルドは、ダフィトが歌う「花の冠の動機」、ヴァルターが歌う「フォーゲルヴァイデの動機」、ベックメッサーが歌う「セレナーデの動機」のメリスマ、第2幕での群衆の「騒乱の動機」、同「殴り合いの動機」、「徒弟たちの踊りの動機」など作品の至るところに浸透している。ワーグナーが前作『トリスタンとイゾルデ』において、半音階法を徹底的に推し進めたことで和声法の新たな地平を切り開いたように、ここではテトラコルドの偏在が「古い響き、それでいて新しい響き」(第2幕第3場、ザックスの「ニワトコのモノローグ」より)を獲得している。 さらに、テトラコルドの枠組みをなしている完全4度を変容させることで、完全4度よりも半音広い増4度、半音狭い減4度の音程にも意味論的解釈が生じている。増4度(三全音)は、古くから「死」など否定的意味合いの表出のために使われてきた音程である。ワーグナーは、「ニワトコのモノローグ」や「迷妄のモノローグ」において、「ニワトコ(Flieder)」の部分に増4度を用いた。これによって、増4度音程が肯定的なニワトコの香りであるとともに迷妄のきっかけという両義性を持つに至っている。また、「迷妄のモノローグ」では、「春の促しの動機」に減4度音程が含まれている。これは反復されて「エファの動機」と関連づけられる。したがって、春の「促し」とエファの「問い」が合わせられ、減4度音程は「応え/答え」を求める意味を表出する。 このように、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の音楽は、増減4度を含めた広義のテトラコルドから成り立っており、物語に内在する対立や異質な要素を統合し、ドラマに宥和と和解をもたらすのは、この「パンテトラコルド」による音楽ということができる。
※この「テトラコルドと4度音程」の解説は、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の解説の一部です。
「テトラコルドと4度音程」を含む「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の記事については、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の概要を参照ください。
- テトラコルドと4度音程のページへのリンク