チフス
★1.明治・大正の頃には、腸チフスは死にいたる伝染病だった。
『それから』(夏目漱石)7 長井代助と平岡常次郎の学友に、菅沼という男がいた。菅沼は東京近県の出だったが、妹の三千代と2人で東京に家を持ち、菅沼は大学へ、三千代は女学校へ通った。菅沼が卒業する年の春、田舎の母親が遊びに出て来て、チフスに罹患した。すぐ大学病院へ入れたものの、母親は死に、さらに、見舞いに来た菅沼にもチフスが伝染して、彼も程なく死んでしまった。その年の秋、三千代は平岡と結婚した→〔犠牲〕7。
『こころ』(夏目漱石) 「先生」は新潟県の富裕な家の一人っ子として育った。しかしまだ20歳にならない時分に、両親とも腸チフスで死んでしまった。最初に父が罹病し、看護する母に伝染したのである。両親の死後、「先生」は叔父夫婦の世話になった。ところが叔父は「先生」の家の財産を横領し、それをごまかすために、自分の娘と「先生」を結婚させようとした。「先生」は人間不信に陥り、叔父と縁を切って、1人で東京へ出た。
『すみだ川』(永井荷風) 18歳の長吉は、常磐津の女師匠の1人息子で、「役者か芸人になりたい」と思っている。しかし母はそれを許さず、進学させて月給取りにするつもりである。長吉は幼なじみのお糸とも会えなくなり、前途の希望を失う。彼は「いっそ病気にでもなって死にたい」と考え、大雨で水害にあった地区へ出かけて、泥水の中を歩き回る。その夜から長吉は風邪を引き、腸チフスになって病院へ運ばれる。
*妻をチフスに感染させて死なせる→〔死因〕4の『途上』(谷崎潤一郎)。
『熱い空気』(松本清張) 大学教授稲村は、妻春子の妹寿子と不倫関係にあった。2人は偽名を使って、熱海のR観光ホテルに宿泊する。ところが後になって、当日、ホテルにチフス患者がいたことがわかった。チフスは法定伝染病なので、警察が宿泊客の調査を始める。家政婦・河野信子は(*→〔女中〕5)、稲村の浮気を察知し、彼がR観光ホテルに宿泊したことを警察へ知らせる。それに加えて、寿子がチフスを発症したために、稲村の浮気は妻春子の知るところとなった〔*テレビドラマ『家政婦は見た』第1回の原作〕。
*「浮気の証拠のチフス」は大事(おおごと)だが、「デートの証拠の風邪」くらいであれば、見過ごされてしまう→〔風邪〕4の『殿方ご免遊ばせ』(ボワロン)。
チフスと同じ種類の言葉
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