タムルアン洞窟の遭難事故
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洞窟入口に集まる救助隊員と機材類
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日付 | 2018年6月23日 |
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座標 | 北緯20度22分21秒 東経99度51分03秒 / 北緯20.37250度 東経99.85083度座標: 北緯20度22分21秒 東経99度51分03秒 / 北緯20.37250度 東経99.85083度 |
原因 | 雨季による洞窟内の浸水 |
結果 | 洞窟内の大半が水没し、計13人が閉じ込められた。7月2日に全員の無事が確認され、8日から10日までの間に遭難者全員が救出された[1]。 |
死者 | 救助隊2人死亡[2](1名は負傷による感染症により死亡) |
タムルアン洞窟の遭難事故(タムルアンどうくつのそうなんじこ)とは、2018年6月23日にタイ王国・チエンラーイ県のタムルアン森林公園内のタムルアン洞窟(タイ語: ถ้ำหลวงนางนอน[注 1]、英語: Tham Luang Nang Non Cave)において、計13人が閉じ込められた遭難事故[3]。
地元のサッカーチーム「ムーパ・アカデミー」のメンバーであるコーチ1人と少年ら12人の合計13人が閉じ込められ、7月10日までに13人全員が救出された[4][1]が、救出活動中にダイバー1人が殉職[5]。さらに翌年、救出活動に参加したダイバー1人が、作業中の怪我による感染症で亡くなった。
概要
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2018年6月23日、地元のサッカーチーム「ムーパ・アカデミー」のメンバーであるコーチ1人と少年ら12人の計13人が洞窟内に進入した[3]。タムルアン洞窟がある山の形が女性が横たわった姿に似ており、この洞窟は「男性に強い恨みを持って亡くなった女性の体内」と言われていて、地元の人達には恐れられている[6]。
当時は雨季に入っており、大雨で洞窟内に大量の水が入り込んだ。その結果、洞窟内の水位が上昇して大半が水没したため、脱出できない状況に追い込まれた。
メンバー13人は7月2日に洞窟の奥の突き出た岩の上にいるところをイギリスのダイバーにより発見され、全員の無事が確認された[7]。しかし、13人のいる位置は洞窟の入口から約5キロメートルの場所で、入口までの多くの箇所が浸水しており、洞窟潜水を行わない限り洞窟内を通過できない。ポンプで洞窟内の水を排水する方法や地上から掘削するなどの方法が検討され、地元や世界各国の救助チームが救助活動を行った[8]。なお、この救出行動が原因で、7月5日にプーケット島沖で発生した客船沈没事故の遺体収容活動にダイビングの専門家が不足していた[9]。
タイ王国海軍のほか、日本やイギリス、アメリカ合衆国、オーストラリアなど外国人を含めて救助活動が組織された[10]。メンバーらがいる遭難現場まで物資を届けに行った元タイ海軍特殊部隊のダイバー、サマン・グナン[5]が潜水中に死亡するなど、状況は過酷を極めた。死亡原因は、物資を届けに行った帰りで、空気タンクの残量がなくなったとされている[2]。このダイバーは軍曹で退役したが、功績を讃えて少佐に特進、白象勲章勲一等が授与された[11]。
救助には以下の方法が模索されていた。
- メンバーらにダイビング装置を装着させて脱出 - 洞窟潜水は大変危険な上に、ダイビング経験がない者が行うとパニックになって命を落とす場合もある。
- ポンプによる排水で洞窟内の水位を下げて救助 - 1時間に1センチメートル程度で水位が下がっているが、雨季によって水位が上がるため、排水が間に合わない危険性がある。
- 地上からの掘削 - 現場は標高の高い山とジャングルになっており、掘削するための重機が入れない。また洞窟内の正確な測量データがないと、現場を掘り当てるのはかなり難しいとされた。
フジテレビジョンで2018年8月12日に放送された『Mr.サンデー』によれば、最終的には、イギリス洞窟救助協会に所属するダイバーに依頼がなされ、パニック防止のために鎮静剤を注射した上で、ダイバー1人で1人を救出する方法が立案・実行された。なお、衛星による洞窟付近の高精度な地形図が国際協力機構(JICA)のタイ事務所と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力で作成され、タイ側に提供されて救出作業のサポートの一助となった[12]。
最終的にはダイバーによる救出となったが、遭難者の生存や救出作業を支援するため、大量の水が洞窟内から汲み出された。洞窟周辺に滞留した水により樹木が根腐れする被害を受けたため、救出から1年後の2019年7月8日、遭難者やその家族らによる植樹が行われた[10]。
遭難者リスト
かつて仏教僧侶としての修行を積んだ経験もあるエカフォル・シャンタウォンとチームに所属する少年3人は国籍を有しておらず、彼らを市民として認めていない[13]。その後、2018年8月8日に4人に対してタイ国籍が付与されたと報じられた[14]。
名前 | ニックネーム | 年齢 | サッカーのポジション |
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エカフォル・シャンタウォン[注 2] | エイク | 25歳 | アシスタントコーチ |
ピパット・ボディ | ニック | 15歳 | チームのメンバーではない。 エカラート・ウォンソクチャンの友人である。 |
モンコル・ブンピャム | マーク | 14歳 | |
ソンポン・ジャウォン | ポング | 13歳 | ミッドフィールダー |
ポルチャイ・カムルン | ティー | 16歳 | ディフェンダー |
デュアンペッチ・プロムセップ[注 3] | ドゥム | 13歳 | キャプテン, フォワード |
パヌマス・サンディー | ミック | 13歳 | ディフェンダー |
アダル・サムオン[注 4] | 14歳 | ミッドフィールダー | |
ピラパット・ソンパンハイ | ナイト | 16歳 | ミッドフィールダー |
プラジャック・サザム | ノート | 14歳 | ミッドフィールダーとゴールキーパー |
ナタット・タカムサイ | ティエ | 14歳 | フォワード |
チャニン・ウィブーンルンルアン[18] | タイタン | 11歳 | フォワード |
エカラート・ウォンソクチャン | ビュー | 14歳 | ゴールキーパー |
その後
7月24日、救助された少年12人のうち11人が僧侶見習いとして1週間出家した[19]。
9月6日、救助に貢献した188人(うち外国人114人)に、勲章が授与された[20]。日本人受章者はJICA関係者3名[21]。
救助された少年らは、サッカーが縁でイギリスのマンチェスター・ユナイテッドFCに招待され、同年10月にオールド・トラッフォードで行われた試合を観戦、主力選手との面会も果たした[22]。また、救出作業で照明や誘導に使われた蓄光素材が福島県川内村の工場で生産された縁で、2019年4月に福島で中学生を中心としたJヴィレッジSCと交流試合を行った[23]。
タムルアン洞窟近くには殉職したダイバーの像が建てられ、併設された学習センターでは救出に使われた空気タンクや洞窟の模型が展示されている。一帯を訪れる観光客は事故前の年間5000人程度から140万人へ増え、観光地化している。洞窟周辺は2018年10月に森林公園に指定され、国立公園・野生動植物保全局が管理している。国立公園への昇格[5]や洞窟の公開も検討されている[10]。
2022年9月23日、Netflixで当事故に基づくドラマシリーズ『ケイブ・レスキュー: タイ洞窟必死の救出』が配信[24]。
2023年2月16日、キャプテンの少年がサッカー留学していたイングランドのレスターシャーにて事故死[25] [26]。
事故の救出活動を描いた作品
事故をテーマとした映画制作が計画され[27]、『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』として2019年11月に公開。これとは別にネットフリックスも映像化を発表している[5]。
- 映画
- 2019年 - 『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』
- 2021年 - 『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』
- 2022年 - 『13人の命』
- 書籍
- 2020年 - 『All Thirteen』 - 当事故をテーマとした児童書。
脚注
注釈
出典
- ^ a b 【写真で見る】タイ洞窟 少年らの行方不明から救出まで BBC 2018年7月11日公開 2018年7月15日閲覧
- ^ a b タイ洞窟救助、物資運んでいたダイバーが死亡 BBC 2018年7月6日公開
- ^ a b “タイ洞窟の13人、救出は長期化か”. TBS. (2018年7月7日). オリジナルの2018年7月7日時点におけるアーカイブ。
- ^ “タイ洞窟から少年ら全員脱出 遭難から18日、救出劇に幕”. AFPBB NEWS. (2018年7月11日) 2020年7月9日閲覧。
- ^ a b c d 「世紀の救出劇」から1年 タイの洞窟、観光ブーム『日本経済新聞』朝刊2019年9月26日(国際面)同日閲覧
- ^ 『タイ洞窟少年ら救出を阻む壁?潜水救出の危険検証▽日本代表帰国&会見』 2018年7月5日(木)10:25~13:55
- ^ タイの洞窟で行方不明の少年ら13人、無事確認 脱出まで数カ月か BBC 2018年7月3日公開
- ^ タイ洞窟脱出へ“空気のトンネル”設置案も 少年ら潜水は「まだ無理」 産経ニュース 2018年7月7日公開
- ^ “タイ沈没、死者41人に 墓場と化した船内、捜索続く”. AFPBB News. (2018年7月8日) 2018年7月19日閲覧。
- ^ a b c 「洞窟事故1年/タイ少年 感謝の植樹」「現場周辺 進む観光地化」『読売新聞』朝刊2019年7月9日(国際面)。
- ^ 元特殊部隊員、少佐特進 時事通信 2018年7月14日公開 2018年7月15日閲覧
- ^ “Mr.サンデー、タイ洞窟少年ら救出劇“完全再現””. 朝日新聞デジタル(提供元は日刊スポーツ). (2018年8月11日). オリジナルの2018年8月11日時点におけるアーカイブ。 2018年8月12日閲覧。
- ^ “タイ洞窟 「英雄」と称賛のコーチと少年3人、実は無国籍の境遇”. AFPBB News. (2018年7月11日) 2018年7月14日閲覧。
- ^ “洞窟から救出の少年らに国籍付与 タイ政府が発表”. 朝日新聞デジタル. (2018年8月8日) 2018年8月12日閲覧。
- ^ Jacob Goldberg and Veena Thoopkrajae Talented and resilient : the Wild Boars footballers trapped in Thai cave The Guardian 5 juillet 2018
- ^ a b 実は…国籍ないんですNHK 2018年9月16日閲覧
- ^ タイ洞窟脱出の真実:「無国籍」の少年たちは「再び」生き抜いたCOURRIER、2018年9月16日閲覧
- ^ “タイ洞窟「きょう中に全員救出する計画」”. NHK. (2018年7月10日). オリジナルの2018年7月13日時点におけるアーカイブ。 2018年7月11日閲覧。
- ^ “タイ洞窟から救助の少年11人、僧侶見習いに”. CNN.co.jp. 2023年5月4日閲覧。
- ^ Cave heroes to receive royal medalsThe Nation 2018年9月6日
- ^ JICA関係者がタイ国王より勲章を受章:洞窟遭難事故における捜索・救出活動を支援JICA 2018年9月10日
- ^ タイ洞窟救出の少年、念願のマンU観戦 選手らとも面会『朝日新聞』2018年10月29日
- ^ <Jヴィレッジ>タイ・洞窟から生還の少年ら、サッカーで福島応援 地元チームと交流試合『河北新報』2019年4月7日
- ^ “Netflix limited series ‘Thai Cave Rescue’ reveals untold stories of Tham Luang mission, beginning September 22”. Netflix Media Center. 2022年7月27日閲覧。
- ^ “タイ洞窟から生還の少年、サッカー留学先の英国で死去 17歳”. CNN.co.jp. 2023年5月4日閲覧。
- ^ “5年前にタイ洞窟から生還の少年が死亡 サッカー留学先のイギリスで”. BBC NEWS JAPAN (2023年2月16日). 2023年7月31日閲覧。
- ^ タイ洞窟遭難の救出劇 映画化企画が進行中シネマトゥデイ 2018年7月11日
関連項目
タムルアン洞窟の遭難事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 03:43 UTC 版)
「イーロン・マスク」の記事における「タムルアン洞窟の遭難事故」の解説
また2018年6月、タイで少年らが増水した洞窟に閉じ込められたタムルアン洞窟の遭難事故において、マスクは少年らを救出するために小型潜水艇の提供を申し出て賞賛を浴びたが、これに少年らの救出に貢献した英国人ダイバー、バーノン・アンズワースは「知識を伴わない単なるPR活動」と批判した。
※この「タムルアン洞窟の遭難事故」の解説は、「イーロン・マスク」の解説の一部です。
「タムルアン洞窟の遭難事故」を含む「イーロン・マスク」の記事については、「イーロン・マスク」の概要を参照ください。
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