クーロンモデルの限界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 01:23 UTC 版)
摩擦面において実際に接触を担っているのは、様々な長さスケールにわたる固体表面の隆起(アスペリティ)だと考えられている。アスペリティ構造はナノスケールの小ささに至るまで存在する。固体と固体が接触するとき、実際に触れあっているのは有限個のアスペリティの突端のみであり、それら真実接触部の面積は見かけの接触面積のわずかな部分(10−3% - 1%)を占めるに過ぎない:179。接触面への荷重が増加すると、アスペリティはもう一方の表面に押し付けられ、塑性流動によって接触面積が広がる。これにより、荷重と真実接触面積の間に線形の関係が生まれる。接触部で作られる分子間接合(凝着)を壊して面を滑らせるためには、真実接触面積に材料のせん断強さ(単位面積当たりの結合を切るのに必要なせん断応力)をかけた分だけの力が必要である。このように、クーロン摩擦において最大静止摩擦力と荷重(垂直抗力)が比例する理由は凝着に基づいて説明できる(凝着摩擦の節参照)。 ただし、この経験則は結局のところ、極度に複雑な物理的相互作用の詳細を無視した近似則でしかない。たとえば、真実接触面積が見かけの接触面積に近づくと変化が飽和して比例関係が壊れるため、荷重が大きい領域ではクーロン近似は成り立たない。あるいは、表面酸化膜が弱い銅のような金属では、荷重によって表面層が壊れるため摩擦係数は一定とみなせない:71。また、接触面に結合が生じると、クーロン摩擦は非常に悪い近似となる。たとえば粘着テープが滑りを妨げる効果は垂直抗力がゼロや負であっても生じる。ゲルにはたらく摩擦力は接触面積に強く依存することがある:10。この理由によりドラッグレース用のタイヤには粘着性を持つものがある。 クーロン近似が当てはまらない状況もあるとはいえ、その強みは単純さと適用範囲の広さにあり、多くの物理系の摩擦について十分に有効な描像である。
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