イナンナからの伝言
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/14 07:51 UTC 版)
軍が見えなくなると、ルガルバンダは風のように駆け抜けあっという間に7つの山を越えた。夜になる前にウルクのクラバへ到着し、クッションへもたれかかるイナンナの前に深々と頭を下げる。イナンナは優しく声を掛けた。「何故たった1人でやってきたのですか。アラッタから何か知らせでも?」。ルガルバンダは、「王からの伝言があります」と言ってその内容を告げる。以下、要約文(話しているのはルガルバンダなので、主語がエンメルカルの一人称「私」からルガルバンダの略称「王」へと変換されている)。 「王は、ずっと昔にイナンナ様から王権を授かって以降、沼地にすぎなかったウルクの水はけを良くし、都を築き、正義と平和によって国と人々を治めて参りました。けれど、今になって何故、アラッタとの戦争において、王を見捨てたのでしょうか。王をアラッタに置き去りにし、戦の女神である貴女が、1人ウルクへ戻ったのでしょうか。王が言うには、自分がもう不要になったということだとしても、軍隊だけは無事ウルクへ帰りつかせてくださいとのことです。さすれば王は槍を下ろし、帰還した暁には女神によって王の盾が打ち砕かれましょう」。 これを聞いたイナンナは、謎めいた言葉を述べ始めた。「向こうの浅瀬に、神の池がある。そこには小さな魚(スフルマシュ)が一匹、水草を食べ、それより大きな魚(キントゥル)が一匹、ドングリを食べ、一番大きな魚(ギシュシェシュ)が一匹、跳ねまわっている。そして池の水際に生命の木タマリスクがあり、更にそのほとりに一本だけ孤立したタマリスクがある。王がアラッタに勝つためには、その池を見つけ、離れて立つタマリスクを切り倒して器を作り、一番大きな魚を入れて神々に捧げなければならない。そうすればウルクの力が勝り、アラッタの力が衰える。ただ一つ、王が心に留めなければならないことは、アラッタを討ち滅ぼしてはならない、ということ。もし王が、アラッタの彫刻品や、それらを作った芸術家や職人を護り、更に、戦いで傷んだアラッタを復興させるならば、そのとき初めて、エンメルカルは大王として勝利と祝福を得られるでしょう」。 イナンナの話した通りに事は運んだ(物語の終わり)。 補足:ルガルバンダは強靭な脚力で再び山を目指して軍に戻り、イナンナからの助言を無事エンメルカルに伝えたとされている。イナンナの言うことはつまり、「征服ではなく平和解決を結びなさい」ということだった。もとよりエンメルカル自身も、アラッタの貴金属や加工技術が欲しかっただけで、それはアラッタを滅ぼすこととイコールではない。故にイナンナの言葉を理解できたエンメルカルは兵を下ろし、和平交渉を成立させると、疲弊したアラッタを修復する見返りとして目的通りアラッタとの交易を獲得したものと思われる。
※この「イナンナからの伝言」の解説は、「ルガルバンダ」の解説の一部です。
「イナンナからの伝言」を含む「ルガルバンダ」の記事については、「ルガルバンダ」の概要を参照ください。
- イナンナからの伝言のページへのリンク