うすめても花の匂ひの葛湯かな
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季 節 | 冬 |
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評 言 | 葛は河原や野原で他の木などに絡みついて繁茂する生命力のある植物です。 蔓は強靭で根は葛根と呼ばれ漢方薬(葛根湯)が作られるなど、民間療法として伝統的に用いられてきました。 葛粉は吉野の本葛が高級品とされ和三盆を混ぜたものが葛湯となります。葛湯には桜の花びら、抹茶、柚子、生姜等を混ぜたものも多くみられます。 私の子どもの頃の1960年代には、白い粉に湯を注ぎいれかき回すことで透明になる飲み物の不思議さが好きで風邪の引き始め、寒い夜の団欒に母が作ってくれた葛湯は楽しい思い出です。 草間時彦に「匙重くなりて葛湯の煮えにけり」がありますが、これは葛湯を実際に作る感じが出ています。 また、葛湯のゆるゆるとしたとろみの透明感には、しっかりと葛に閉じ込められていた物の本質、色、香りがとろりとした透明感の中にふくふくとあふれ出てくるのが感じられます。冴えた透明感では見えない、理性では割り切れない奥行きのある、向こう側が溶けてきます。 この句の「花の匂」は葛のそれでしょうか。葛の花は8月~9月ごろに赤紫の豆の花ような花を咲かせ、甘い芳香があります。 この句の「うすめても花の匂の」は淡いピンクに包まれたあたたかな情のある女性の姿さえもほのかに見えてきます。 渡辺水巴(1882~1946)は「ホトトギス」の大正初期の主観時代を最初に形成した作家」(小島健)で「洗練された芸」と「繊細な美的感覚に貫かれた独特の美的世界」(同前)といいます。 この葛湯の句にもそうした美意識が濃厚です。 |
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