焼入れ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/04 03:55 UTC 版)
広義には、金属全般を所定の高温状態から急冷させる操作を行う処理を指し[1]、狭義には、鉄鋼材料(特に鋼)を金属組織がオーステナイト組織になるまで加熱した後、急冷してマルテンサイト組織を得る熱処理を指す[4]。本記事では、狭義の方の鋼の焼入れについて主に説明する。
焼入れを行うことにより、鉄鋼材を硬くして、耐摩耗性や引張強さ、疲労強度などの強度を向上させることができる[5]。焼入れ性がよい材料ほど、材料内部深くまで焼きを入れる(マルテンサイト化させる)ことができる。焼入れしたままでは硬いが脆くなるため、靭性を回復させて粘り強い材料にするために焼戻しを焼入れ後に行うのが一般的である。焼入れ処理にともなって割れやひずみなどの欠陥が起きる可能性があり、冷却方法などに工夫が行われる。
基本原理
物質は、組成、温度、圧力の条件により、液体や固体などに代表される相と呼ばれる物質の形態が変化する[6]。組成、温度、圧力などを縦軸や横軸として変化させて、どの相が存在するか示した図を状態図、平衡状態図、あるいは相図と呼ぶ[7]。合金の場合は、圧力一定として温度変化と組成変化で状態図を示す場合が一般である[7]。また、合金の場合は、固体として存在する間でも種々の相に変化するのが特徴である[8]。このような相の変化を変態と呼ぶ[9]。
ある1つの金属元素に別の1つの元素を加えたものを二元合金と呼ぶ[10]。鉄と炭素から成る二元合金について、横軸に炭素の質量パーセント濃度、縦軸に温度を取り、相の変化を示した図を鉄-炭素系二元合金平衡状態図、あるいは鉄-炭素系平衡状態図などと呼ぶ[11][12]。ここで「平衡」とは、非常にゆっくり冷却・加熱したときの変化を表している[11]。鉄-炭素系二元合金平衡状態図は純鉄と純炭素のみを原料とした合金に基づくものであるが、一般的な鋼は、不純物として、あるいは性質改善のために、炭素以外の成分も含んでおり、これらの他の成分により状態図が多少変化するので注意が必要である[12][13]。合金鋼の場合で、横軸:炭素濃度、縦軸:温度の状態図で比較すると、合金元素の総量が5%以下の低合金鋼では鉄-炭素二元合金とほぼ同形だが、総量10%以上の高合金鋼になると大きく異なってくる[13]。以下では簡単のために鉄-炭素系二元合金平衡状態図を用いて鋼の相変化を説明する。
純鉄と呼ばれる炭素質量パーセント濃度が0.022%以下の領域を除いて、鉄-炭素系二元合金平衡状態図を見ていく(右図を参照)。室温では、鋼の相はフェライト相およびセメンタイトで構成される[14]。詳しく見ると、炭素濃度0.77%未満ではフェライト+パーライトで、0.77%丁度ではパーライトのみで、0.77%超過ではパーライト+セメンタイトで構成される[15]。この0.77%の点を共析点と呼び、共析点未満の炭素濃度の鋼を亜共析鋼、共析点丁度を共析鋼、共析点超過を過共析鋼と呼ぶ[16]。硬さに注目すると、フェライトは軟らかく粘りのある組織で、パーライトも比較的柔らかい組織で、セメンタイトは非常に硬いが脆い組織となっている[17]。
高温域を見ていくと、A1線と呼ばれる727℃の温度を超えた領域では、亜共析鋼はフェライト+オーステナイトに、共析鋼はオーステナイトのみに、過共析鋼はオーステナイト+セメンタイトになる。この温度では亜共析鋼にはまだフェライトが存在するが、さらに温度を上げてA3線と呼ばれる温度を超えると亜共析鋼もオーステナイトのみの相となる[18]。オーステナイトもフェライトに似て軟らかく粘りのある組織であるが、炭素固溶領域が大きい特徴を持つ[19]。
オーステナイトあるいはオーステナイト+セメンタイトの高温状態から、逆に冷却していくとする。ゆっくり平衡的に冷やしていくと上記で説明した順序を逆にたどって変態が起こるだけだが、冷却速度を上げて冷やすと、パーライトやフェライトに変態する時間が足りず、マルテンサイトと呼ばれる平衡状態図には示されない相が現れる[20]。この変態をマルテンサイト変態と呼ぶ。マルテンサイト組織は、α鉄が過剰に炭素を強制固溶した組織で、非常に硬い性質を持つ[21]。このように、急冷によるマルテンサイト変態を起こして鋼を硬くさせる操作が、一般的な鋼の焼入れである[4][22]。
日本刀の焼入れなど、焼入れは古来から経験的な鍛冶職人の技術として存在していたが[23]、1888年、ロシアの冶金学者ドミートリー・コンスタンチノヴィッチ・チェルノフ(Dmitry Chernov)により、焼入れが起こる具体的な加熱・冷却条件が発表され、これが鋼の焼入れ、及び熱処理の理論的な嚆矢とされる[24][25]。
方法
焼入れは、一般的に加工品の加熱、温度保持、冷却という順序で行われ、冷却途中でマルテンサイト変態が発生する。また、通常は焼入れ後に焼戻しを行う。以下に順を追って説明する。
加熱
鋼の組織がオーステナイトになるまで加工物を炉などで加熱する。熱処理用の炉の種類には、熱源の種類別に、電気炉、重油炉、ガス炉、塩浴炉などがある[27]。加熱前の前処理として、焼入れ不良の原因となるため、加工品に汚れや錆がある場合は洗浄やショットブラストで取り除く[28]。
加熱は、一般に、亜共析鋼ではA3線から30 - 50℃高い温度まで昇温させ、共析鋼・過共析鋼ではA1線から30 - 50℃高い温度まで昇温させて、温度を保持する[29]。前述の通り、A3線・A1線を超えるとオーステナイト化されるが、それよりも30 - 50℃高く設定する理由は十分均一なオーステナイトを得る確実性を上げるためである[20]。このような焼入れのための最高加熱温度を焼入れ温度あるいはオーステナイト化温度と呼ぶ[22]。上記の一般的な焼入れ温度は、焼なましの一種である完全焼なましとほぼ同じ加熱温度でもある[30]。
亜共析鋼の場合、もし焼入れ温度がA3線より低い場合は、A3線以下ではフェライトが既に析出しているので、焼入れ後組織にもフェライトが含まれるようになり十分な硬度が得られない[31]。このような、何らかの原因によりマルテンサイトのみの組織が得られなかった焼入れを不完全焼入れ、甘焼きと呼ぶ[32][33]。これに対して、100%マルテンサイト組織が得られた焼入れを完全焼入れと呼ぶ[34]。ただし、100%のマルテンサイトを得ることは現実的には困難なので、およそ90%程度で実用上は完全焼入れと見なされる[35]。逆に焼入れ温度が高過ぎると、結晶粒が粗大化して焼入れ後の機械的性質が劣るようになる[36]。また、後述の焼割れや変形の原因にもなる[36]。
過共析鋼の場合、A1線を超えて Acm線以上まで加熱すれば全ての組織がオーステナイト化されるが、この温度から焼入れしても焼割れや残留オーステナイトの増加などが発生して上手く焼入れできない[37]。これは鉄中への炭素の固溶濃度が大きくなり過ぎることが原因で、このため焼入れ温度を A1線直上に設定するのが一般である[37]。ただし、後述の通り高合金鋼使用の場合は、Acm線以上で焼入れ温度を設定する場合もある。
温度保持
焼入れ温度に保持してセメンタイトをオーステナイト中に固溶させる操作を、固溶化熱処理、オーステナイト化処理とよぶ[38]。昇温速度にもよるが、加熱するとき加工品の表面に比べて内部・中心は遅れて昇温するので、表面温度が焼入れ温度に達した後に内部・中心温度は遅れて焼入れ温度に達する[39]。そのため、加工品表面が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を保持時間、加工品全体が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を有効保持時間と呼び分ける[39][注 2]。必要な保持時間は、昇温速度、加工品の大きさ、化学成分や加熱前の組織状態によって変わる[41][42]。
昇温速度の影響としては、A3線またはA1線を超えると昇温がゆっくりでもオーステナイト変態が進行するので、徐々に加熱した場合は保持時間は短くてもよく、急速に加熱した場合は長くする必要がある[42]。
また、内部・中心温度は遅れて昇温するので、加工品の形状が大きくなるほど全体が均一温度になるのに時間がかかる[43]。表層温度が焼入れ温度に達してから中心部温度が0.25%以内で表層温度と均一になる時間の概算式として、加工品が丸棒形状・低炭素鋼とした場合の次式がある[43]。
CCT図(連続冷却変態曲線)(亜共析鋼の場合)
Ps:パーライト変態開始線
Pf:100%パーライト変態完了線
Ms:マルテンサイト変態開始線
Mf:マルテンサイト変態終了線
(2)の冷却曲線が上部臨界冷却速度、(3)の冷却曲線が下部臨界冷却速度加工品の加熱・保持後に冷却を行う。焼入れに必要な冷却速度は大体160℃/秒以上とされる[45]。冷却速度を下げていくと、マルテンサイト変態の前にパーライト変態、ベイナイト変態、フェライト変態が発生するようになり、冷却後の組織にマルテンサイト以外の組織が混入し始める[46][31]。この他の組織が発生するようになる限界の冷却速度を上部臨界冷却速度、あるいは単に臨界冷却速度と呼び[47]、完全焼入れになる限界速度でもある[42]。上部臨界冷却速度からさらに冷却速度を下げていくと、他の変態が多くなりマルテンサイト変態の比率が下がっていき、遂にはマルテンサイト変態が発生しなくなる[31]。この限界の冷却速度を下部臨界冷却速度と呼び[48]、不完全焼入れになる下限速度となる[46]。さらに冷却速度を遅くすると(亜共析鋼の場合は)焼ならしに、もっと遅くすると完全焼なましに該当するような熱処理操作となる[46]。
このような冷却速度と変態の関係を、亜共析鋼を例にしてCCT図(連続冷却変態曲線)で見ていくと [注 3] 、上部臨界冷却速度でパーライト変態開始線にかかり出す[46]。上部臨界冷却速度と下部臨界冷却速度の間では、100%パーライト変態する前にパーライト変態領域を抜けて残りはマルテンサイト変態領域に入る[48]。下部臨界冷却速度で100%パーライト変態線にかかり出し、これ以上になると全てパーライト変態となる[46]。
また、降温中の焼入れ温度から約550℃までの範囲を臨界区域と呼ぶ。これはTTT図(恒温変態曲線)で見ると[注 3]、オーステナイトからパーライトあるいはベイナイトへの変態開始曲線の左に張り出した鼻のような部分がこの約550℃に相当する[52]。この鼻の部分を通り過ぎるときに、パーライトあるいはベイナイトへの変態が起きやすい[53]。急冷させて鼻の部分を避けるところまで降温させれば、変態開始曲線はC形になっているためベイナイトへの変態開始点は長時間側へ逃げていき、冷却速度を落とせる余裕が生まれる[53]。つまり、臨界区域を抜ける温度まで、できるだけ早く冷却することが完全焼入れを行うために重要となる。
一般的に理想的な冷却の仕方は、焼入れ温度から臨界区域を過ぎて後述のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)手前まで出来るだけ早く均一に冷やし、Ms点以下の危険区域はゆっくり冷やすとされる[54]。焼入れ温度からMs点までの急冷は、上記のようなマルテンサイト変態以外が発生する不完全焼入れを避けるためで、Ms点に到達した後は急冷の必要は無くなり、後述の焼割れや変形などの欠陥を避けるため冷却速度をゆっくりにする。
二段冷却・等温冷却
上記で説明したような理想的な冷やし方を実現するため、冷却剤と加工品の温度が平衡になるまで放置せず、降温途中のMs点前で、水冷などの急冷から空冷などのゆっくりとした冷却に切り替える方法が取られる[46]。このような冷却を二段冷却などと呼び[55]、焼入れを二段焼入れ、あるいは引上げ焼入れ、中断焼入れ、階段焼入れ、などと呼ぶ[46][1]。また、二段焼入れを、水や油などの冷却剤へ漬けた瞬間からの時間を数えて引き上げる方法で実現する方法を、時間焼入れと呼ぶ。時間焼入れの場合の目安としては、水焼入れは肉厚3mm当たり1秒、油焼入れは同肉厚当たり3秒で引き上げるのが良いとされる[46]。時間に拠らない場合の目安としては、加工品の振動や水鳴が止んだときに引き上げるのが良いとされる[46]。ただし冷却時間を誤ると、極端に短いときは全く焼きが入らない、短いときは表面は焼きが入るが中心部との温度差で中間部が変態膨張して後述の焼割れが起こる、長すぎると危険区域を通過して同じく焼割れが起こるなどの難しさがある[56]。
二段焼入れに対して、Ms点を通過して常温まで冷却する方法を連続冷却と呼び[55]、焼入れを普通焼入れと呼ぶ[36][注 4]。また、冷却の途中で一定時間等温に保ち、その後また冷却する方法を等温冷却と呼び[55]、焼入れを等温焼入れ、恒温焼入れなどと呼び、後述のマルテンパやオーステンパなどで利用される[57]。
加工品形状の影響
焼割れや変形を避けるためにも、加工品全体が均一に降温するように冷却するのが理想的である。そのためには冷却速度を落とすことが1つの方策だが、その他に降温を不均一にする要因としては加工品形状やサイズの影響が大きい。
一般に、表面が最も冷却が早く、内部深くなるに連れて冷却が遅くなる。そのため、表面は100%マルテンサイトが得られるような冷却であっても、中心部ではパーライトしか得られないような冷却速度まで低下してしまうことがある[59]。このように、内部深くになるほど焼きが入りにくくなるので、加工品のサイズが大きくなるほど焼きが入らない領域が大きくなる[59]。また、内部の冷却が遅くなることに起因して、内部だけでなく、表面側も冷却速度が低下して焼きが不十分となることもある[60]。このような加工品の大きさ(=質量)が大きくなるほど焼きが入りづらくなる現象を、質量効果と呼ぶ[61]。焼入れ性が良い材料では深くまで焼きが入りやすいので質量効果を小さくできる[61]。
大きさの他、加工品の形状(形)によって冷却速度は異なる[62]。同じ条件で冷却しても、形状が球、丸棒、平材の違いによる冷却速度比は、大まかに以下のように異なる[63]。
- 球:丸棒:平材 = 4:3:2
これを形状効果などと呼ぶ[62]。
また、同じ加工品内でも局所的な形状の違いによって冷却速度が異なる[63]。特に、凸部が冷却が早く、凹部が冷却が遅い[58]。これを隅角効果などと呼ぶ[62]。それぞれの冷却速度比は大まかに以下のようになる[64]。
- 3面角:2面角:平面:凹面角 = 7:3:1:1/3
その他の影響
その他に、均一な冷却を実現するために、
などの方法・注意点がある。冷却剤の詳細については後述を参照。
マルテンサイト変態
「マルテンサイト変態」も参照素早い冷却により、ある程度まで冷却が進むとマルテンサイト変態が開始する。冷却中のマルテンサイト変態開始温度をMs点、マルテンサイト変態終了温度をMf点と呼ぶ[67]。Ms点とMf点の間では、時間によらず瞬間的にマルテンサイト変態が発生するが、冷却が進むことがマルテンサイト変態が進む条件となる[68]。つまり、Ms点を通過しても冷却を一端停止させると変態の進行も停止する[67]。
Ms点は鋼の化学成分とオーステナイト化温度によって決まる[46]。化学成分量から、鋼のMs点を予測する実験式は数多く提案されている[69]。以下に例を示す。
- Ms = 538 − 317 × C − 33 × Mn − 28 × Cr − 17 × Ni − 11 × Mo − 11 × W − 11 × Si [70]
- Ms = 550 − 350 × C − 40 × Mn − 20 × Cr − 17 × Ni − 10 × Mo − 5 × W − 10 × Cu − 35 × V + 15 × Co + 30 × Al [71]
- Ms = 521 − 353 × C − 24 × Mn − 18 × Cr − 17 × Ni − 26 × Mo − 22 × Si − 8 × Cu [69]
ここで各記号は、Ms はMs点温度 (℃)で、C, Mn, V, Cr, Ni, Cu, Mo, W, Co, Al, Si は各元素の質量パーセント濃度 (%) である。共析鋼の場合で、Ms点は約260℃程度となる[67]。
Ms点が高くなるとMf点も高くなり、低くなる場合も同様に低くなる傾向を持つ[72]。炭素鋼の場合で、Ms点からMf点までは200 - 300℃程度の温度幅である[67]。上式にも示されるように炭素濃度が上がるとMs点は低くなるので、高炭素鋼の場合はMf点は室温よりも低くなる[72]。そのため、室温まで冷却が完了してもオーステナイトが変態しきれず、焼入れ後組織中に残留オーステナイトとして残ることになる[72]。残留オーステナイトは放置しておくと、室温でも時間が経過するに連れて自然にマルテンサイト変態を起こす[73]。このマルテンサイト変態による体積膨張で、最終製品の寸法変化が生じてしまう[73]。これを避けるために、高炭素鋼を用いた製品、特に寸法の経年変化を嫌う精密部品では、焼入れ後直ちに0℃以下に冷却するサブゼロ処理を実施して、残留オーステナイトをマルテンサイト化させる[74]。
Ms点以下になるとマルテンサイトが発生し始めるが、オーステナイトからマルテンサイトへ変態すると大きな体積膨張が起こる[75]。Ms点以下になるとき、温度が不均一だと、上記の膨張発生と冷却による体積縮小の部分的ばらつきにより内部応力が発生して、内部応力が引張強さを超えると割れが発生する[46]。そのためMs点以下の温度域を危険区域と呼び、ゆっくり均一に冷やすことが良いとされる[76]。このため、上記で説明した二段焼入れや等温焼入れなどの手法がある。
焼戻し
詳細は「焼戻し」を参照焼入れにより鋼の硬さを増大させることができるが、靭性が低下して非常に脆い状態となる[77]。このため、粘り強さを得るために、焼入れ後には焼戻しを行うのが一般的である[77]。焼入れと焼戻しの一連の熱処理をまとめて焼入焼戻しと呼び[78]、特に、約400℃以上の高温焼戻しでトルースタイトかソルバイト組織を得る焼入焼戻しは調質と呼ばれる[78][注 5]。
焼戻しの種類にもよるが、焼戻しによりシャルピー衝撃値などの靱性や伸び・絞りなどの延性は回復するが、硬さや引張強さはある程度低下してしまう[80]。そのため、不完全焼入れにより焼入れ硬さが低いものも、完全焼入れにより焼入れ硬さが高いものも、焼戻し条件を調整すれば、焼戻し後の硬さ及び引張強さを同じにすることができる[81]。しかし、例え焼戻し後硬さが同じだったとしても、降伏点、伸び、絞り、衝撃値、疲労限度の値は完全焼入れされたものの方が良好である[81]。よって、完全焼入れを狙った上で、所定の硬さに焼戻しで調整するのが理想とされる[82]。
注釈
- ^ 本記事では、日本工業規格[1]、学術用語集[3]に準じて「焼入れ」の表記で統一する
- ^ 加工品全体が焼入れ温度に達してから冷却するまでの時間を保持時間と呼ぶ場合もある[40]。
- ^ a b TTT図は、ある温度まで非常に急冷させた後に一定温度に保持し、変態の開始、進行割合、終了の時間とその一定温度の関係を示したもの[49]。CCT図は、一定速度で冷却させて、変態の開始、進行割合、終了の時間と温度の関係を示したもの[49]。実際の冷却はある速度を持っているので、CCT図の方が実際に近い[50]。ただし、等温焼入れを行う場合は、TTT図が条件設定に利用される[51]。また、連続冷却の場合でも実際の冷却は一定速度にはならないので、CCT図も実際の冷却とは異なっている[51]。このように、TTT図もCCT図も、実際の現象と離れた点を含む注意点がある。
- ^ 冷却方法ではなく、高周波焼入れのような表面焼入れなどと区別して普通焼入れとも呼ぶ
- ^ あるいは、ソルバイト組織を得る焼入焼戻しに限って調質と呼ぶ場合もある[77][79]。
- ^ 日本刀の特徴である刀身の反りは、この焼曲りによるものである[147]
出典
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