杜氏 勤務形態

杜氏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/17 04:43 UTC 版)

勤務形態

半纏(はんてん)、前掛け(まえかけ)、鉢巻(はちまき)が杜氏や蔵人の伝統的な作業服である。これらは、万が一、樽の呑口(のみくち)から栓が外れて酒が流れ出したりしたときに、咄嗟に鉢巻前掛けを絞って呑口に突っ込み、流出を止めて大事故を食い止めるなどの実用性があったからだという。また半纏は、間違って熱湯などがかかってもすぐに脱げる服装であった。半纏と前掛けには蔵の名前が染め抜かれ、造り仕舞い(つくりじまい)のときなどに鯛の粉菓子や下駄などとともに新しい半纏と前掛けが蔵から贈られた。これらの風習は昭和40年代まで生き残っていた[9]

機械で製造・管理している大手の酒蔵では、杜氏は白衣など着るようになってきている。各工程に必ずしも熟練した杜氏を必要としないため、アルバイトのみで製造に当たっていることも多い。たとえば、全国的な酒造メーカーである月桂冠においては常勤の杜氏は1人だけである。

逆に機械化が進んでいない、手造り重視の年間数百石程度の酒蔵では、杜氏に頼る割合が大きくなるため、常勤の杜氏が多い傾向がある。

また以前のように、仕込みのある時期は睡眠時間もままならない過酷な作業環境を改善しつつも、製成される酒の質は落とさない、ということが現代の酒蔵の間では大きな問題である。それを解決する工夫を成功させた酒蔵が業界のなかではつとに評価を高めている。

各地の杜氏の流派

青森

津軽杜氏(つがるとうじ)
青森県弘前市周辺(津軽地方)を出身地とする。既に数名へ減少し、消滅の危機[10]

岩手

南部杜氏(なんぶとうじ)
現在、日本最大の杜氏集団。岩手県北上川流域を出身地、花巻市石鳥谷町を拠点とする。別項「南部杜氏」に詳しい。

秋田

山内杜氏(さんないとうじ)
秋田県横手市(旧・山内村)を出身地とする。現在では、秋田県全域の杜氏を「山内杜氏」と呼んでいる[10]

山形

庄内杜氏(しょうないとうじ)
山形県庄内地方を出身地とする。既に数名へ減少し、消滅の危機にある[10]

福島

会津杜氏(あいづとうじ)
福島県会津地方を出身地とする。一度は人数を減らし杜氏組合も解散したが、近年復活した[10]

新潟

越後杜氏(えちごとうじ)
新潟県(旧越後国)中南部を出身地とする。かつては日本最大の規模を誇った。現在でも、南部杜氏に次ぐ大きな杜氏集団。別項「越後杜氏」に詳しい。

長野

小谷杜氏(おたりとうじ)
長野県北安曇郡小谷村を出身地とする。現在10名強の杜氏が在住[10]
諏訪杜氏(すわとうじ)
長野県諏訪市周辺を出身地とする。現在10数名の杜氏が活躍[10]
飯山杜氏(いいやまとうじ)
長野県飯山市周辺を出身地とする。現在10名強の杜氏が在住[10]

静岡

志太杜氏(しだとうじ)
静岡県志太郡大井川町(現・焼津市)周辺。満寿一酒造のみが志太杜氏を採用していたが、2013年の杜氏の急逝により廃業し、完全に絶滅した。

石川

能登杜氏(のととうじ)
石川県珠洲市周辺。近年、独自な発展を遂げつつあり注目される杜氏集団。別項「能登杜氏」に詳しい。

福井

大野杜氏(おおのとうじ)
福井県大野市周辺。元々は精米が専門の精米杜氏の集団だった。消滅の危機にある[10]
越前糠杜氏(えちぜんぬかとうじ)
福井県南条郡南越前町糠地区[11]。既に数名に減少し、消滅の危機[10]

京都

丹後杜氏(たんごとうじ)
京都府京丹後市丹後町2005年平成17年)に消滅した[10]

兵庫

丹波杜氏(たんばとうじ)
兵庫県丹波篠山市周辺を出身地とする。の蔵元たちが育て上げた杜氏集団。かつては大勢力であった[10]
南但杜氏(なんたんとうじ)
南丹杜氏とも。兵庫県養父市周辺。大正の頃誕生した最も新しい杜氏集団の一つ。消滅の危機にある[10]
但馬杜氏(たじまとうじ)
兵庫県美方郡香美町新温泉町周辺を出身地とする。南部杜氏、越後杜氏に次ぐ勢力で、日本三大杜氏に数えられるが、近年の減少は著しい[10]
城崎杜氏(きのさきとうじ)
兵庫県豊岡市城崎町。人数も少なくなり、消滅の危機[10]

岡山

備中杜氏(びっちゅうとうじ)
岡山県笠岡市浅口市周辺。人数も少なくなり、消滅の危機[10]

広島

広島杜氏(ひろしまとうじ)
広島県東広島市安芸津町周辺を出身地とする。中心地が安芸津町三津であることから、三津杜氏安芸津杜氏ともいった。明治時代後期の軟水醸造法によって全国的に有名になった。

島根

石見杜氏(いわみとうじ)
島根県益田市浜田市周辺。既に数名を数えるほどに減少。消滅の危機[10]
出雲杜氏(いずもとうじ)
島根県松江市周辺を出身地とする。松江市秋鹿町周辺の出身者を秋鹿杜氏といい、大阪の銘酒「秋鹿」はこれに由来している[10]

山口

大津杜氏(おおつとうじ)
山口県長門市周辺。人数も少なくなり、消滅の危機[10]
熊毛杜氏(くまげとうじ)
山口県周南市周辺。人数も少なくなり、消滅の危機[10]

高知

土佐杜氏(とさとうじ)
高知県南国市周辺を出身地とする。事実上消滅したともいえるが、現在は高知全域の酒蔵の杜氏たちが支えている[10]

愛媛

越知杜氏(おちとうじ)
愛媛県今治市越智郡の島々。人数も少なくなり、消滅の危機[10]
伊方杜氏(いかたとうじ)
愛媛県西宇和郡伊方町(伊方半島の突端)を出身地とする。消滅寸前[10]

福岡

芥屋杜氏
福岡県糸島市芥屋(けや)地区。半農半漁の貧しい地域であったため「冬は男がいない」と言われるほど杜氏としての出稼ぎが多く、最盛期の1960年代には30人以上が200人余りの蔵人を率いて、福岡県や佐賀県の蔵元に住み込んで酒造りを担っていた[3]。最後の芥屋杜氏が、勤務していた市内の白糸酒造で引退を表明しており、同社は「蔵元杜氏」の下、センサーやコンピューターを併用した酒造りに切り替えを進めてきている[3]
筑後杜氏(ちくごとうじ)
福岡県久留米市柳川市周辺を出身地とする[10]
三潴杜氏
筑後杜氏の支流。
柳川杜氏(やながわとうじ)
筑後杜氏の支流。
久留米杜氏(くるめとうじ)

佐賀

肥前杜氏(ひぜんとうじ)
佐賀県唐津市肥前町周辺。人数も少なくなり、消滅の危機[10]

長崎

平戸杜氏(ひらどとうじ)
長崎県平戸市周辺の島々。かつては、島ごとに平戸杜氏生月杜氏と呼んだ[10]
生月杜氏(いきつきとうじ)
平戸杜氏の支流。生月島を拠点とする。
小値賀杜氏(おぢかとうじ)
長崎県北松浦郡小値賀町五島列島の杜氏集団。既に人数が減り、消滅の危機[10]

納豆食の禁忌

納豆菌が麹米に繁殖すると、「スベリ麹」と呼ばれるヌルヌルした納豆のような麹になるので杜氏は仕込みの時期に納豆は食さない[12][13]


  1. ^ a b 丹波杜氏 丹波篠山市商工観光課(2020年1月1日閲覧)
  2. ^ 吉田元『江戸の酒 その技術・経済・文化』(第1版)朝日選書、1997年、p60頁。ISBN 4-02-259669-4 
  3. ^ a b c 【けいざい+】「田中六五」の奇跡(下)新設の蔵 テクノロジーと高みへ朝日新聞』朝刊2022年9月3日(経済面)2022年9月12日閲覧
  4. ^ 実は酒どころ栃木 21世紀発祥「下野杜氏」が活躍日本経済新聞』電子版(2019年6月28日配信)2020年1月21日閲覧
  5. ^ 下野杜氏(しもつけとうじ)とは?(2020年1月21日閲覧)
  6. ^ 和久井映見、20年ぶりの『夏子の酒』ロケ地に感涙「とても幸せです」マイナビニュース(2014年12月4日)2019年12月14日閲覧
  7. ^ 酒蔵が「女人禁制」になった理由─ 時代に合わせて変化する、造り手の働き方 SAKETIMES(2018年7月25日)2020年1月1日閲覧
  8. ^ 稲保幸「お酒の伝来」『日本酒15706種』誠文堂新光社、2007年。ISBN 978-4-416-80797-2 
  9. ^ a b 高浜春男『杜氏 千年の知恵』(初版)祥伝社、2003年2月25日。ISBN 4-396-61179-X 
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 日本名門酒会 公式サイト 2007年の情報 2008-08-25閲覧
  11. ^ 福井新聞社編集局編「杜氏のふるさと」『ふくい新風土記』福井新聞社、1962年、225-227頁。 
  12. ^ 酒蔵と納豆荻野酒造 蔵元ブログ(2014年11月1日)2020年1月1日閲覧
  13. ^ 納豆菌のみならず他にも様々な雑菌が酒に悪影響を与える。






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