マーマイト 概要

マーマイト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/31 22:20 UTC 版)

概要

語源はフランス語で「調理用のふた付き鍋」を意味する「marmite」(マルミット)。本家イギリスのものは濃い茶色をしており、粘り気のある半液状で塩味が強く、独特の臭気を持つ。主にトーストに塗って食されるほか、クラッカーに塗る、スープに溶かすなどの利用法もある。イギリス全土に加えニュージーランド、オーストラリアアイルランドなどの旧英国領では大衆食として広く愛されているほか、最近ではそれ以外の地域でベジタリアン向けの食品として需要が増えつつある。

他に類を見ない味と香りのため外国人には理解できない味とされることが多く、日本米国などでは悪評が高く普及してはいない。日本ではビール醸造の副産物であるビール酵母を動物飼料や栄養補助剤などとして利用することも行われているが、人間用の栄養強化食品として摂取する上では、強力わかもとエビオス錠のような錠剤がむしろ普及している。ただ日本でも通信販売などでは容易に購入できるほか、スイスではセノヴィという良く似た食品が製造および販売されている。

歴史

マーマイトが英国マーマイト社によって商品化され、広くマーケティングされるようになったのは1902年だが、それ以前にもビール生産の副産物でマーマイトの原型と言えるビール酵母の沈殿物を食べる習慣はイギリス人の間に広く存在した。同社の公式ホームページによるとその始まりは1680年以前、ビールの醸造が始まったのと同時期と推定されている。

マーマイトの歴史は科学の発展と密接に関わっている。最初は単にビール醸造の過程でできる残りかすをそのまま食べる習慣だったが、科学の発展により酵母の細胞の存在が確認できるようになると各国の科学者が興味を示すようになり、ドイツ人科学者のリービヒが酵母を凝縮する方法を発明した。これによりビール発酵の残りかすであるビール酵母を圧縮して瓶詰めにすることが可能となり、現在のマーマイトの始まりとなった。そしてその後のビタミンの発見がマーマイトの知名度を一気に押し上げた。また、大量生産にあたっては工場の機械化が重要な課題だったのは言うまでもない。

マーマイトをその主な製品とするマーマイト・フード・エクストラクト社は、1902年に英国スタッフォードシャー州バートン・アポン・トレントに設立され、1907年までにはロンドンのカンバーウェル・グリーンに2番目の工場の建設ができるほど十分な成功を収めた。1990年、既にボヴリール社の子会社になっていたマーマイト社はCPC社(英国)によって買収され、1998年、ベスト・フーズ社へ社名を変えた。ベスト・フーズ社はその後2000年ユニリーバ社と合併し、現在マーマイトはユニリーバ社が所有する商標である。

マーマイトの宣伝キャンペーンは当初は健康志向を強調しており、1980年代には、陸軍小隊が登場するテレビコマーシャルで『私の仲間マーマイト』のキャッチフレーズで宣伝された。マーマイトは第二次世界大戦中にイギリス軍基地のドイツ人捕虜のための標準的なビタミン補給剤であった。

1990年代までに、会社のマーケティングに新要素が加わった。マーマイトの独特で強烈な味は多くの熱狂的なファンを生む一方で、それを拒否する消費者も多く、大好きか大嫌いかに反応が真っ二つに分かれることで広く知られていた。これを風刺する現代的な広告塔として、マーマイトは「マーマイト大好き(I Love Marmite)」と「マーマイト大嫌い(I Hate Marmite)」の2つのウェブサイトを運営し、人々がマーマイトについての経験を共有できるようにした。

2004年には英国で子供番組のテレビ広告として、1958年スティーブ・マックイーンの映画『The Blob』をパロディーにしたものが放映された。これには、人々がマーマイト(オリジナルでは宇宙生物だった)から逃げる恐ろしいシーンがあり、「これを見た子供たちが広告を怖がって悪夢にまで出た」と保護者から抗議され、結局放映中止に追い込まれた。

マーマイトは英国の外ではそれほど一般的ではない。そのため、マーマイトはしばしば英国外の居住者によって最も懐かしい食料として引用される。1994年カシミール独立派に誘拐された英国人バックパッカー、ポール・ライダウトは、次のように述べている。

思えばなかなか旨いものだった。外国に行ったときにそれしか考えられなくなる、正しくそういうものの一つだ。

ビル・ブライソンは、『ビル・ブライソンのイギリス見て歩き』の中でこう記している。

スキッフル音楽、穴が一つしかない塩振り、そしてマーマイト(機械グリスみたいな外見をした食べられるイースト抽出物)、そうしたものが好きな人は、英国人か、少なくとも私より年上か、おそらく両方に違いない。

また、エルトン・ジョンもマーマイト愛好家の一人で、国外ツアーの際は必ず携行するという。

2006年に、マーマイトの新しい「搾り出しボトル」が発売された。より簡単に取り出せるようにするのが狙いで、容器はプラスチックでできている。

マーマイトの搾り出しボトル(右)
蓋を下にして置くことが出来、最後まで使い切る様になっている

食べ方

マーマイトを塗ったトースト

最も一般的な食べ方はトーストに塗る方法であるが、この場合必ずと言っていいほどバターもしくはマーガリンとの組み合わせで消費される。マーマイト単体で食べるのは塩味があまりにも強いのと、粘り気が強くて塗る際に広がりにくいのでイギリス人などのネイティヴからも敬遠されがちだが、まずバターかマーガリンを塗ってからその上にマーマイトを塗ることにより味がマイルドになり、かつ油脂の効果で容易に塗り広げることが可能になる。またマーマイトとバターもしくはマーガリンを塗った上にスライスチーズを乗せ、オーブンで軽く焼くレシピも存在するほか、クラッカー等パンに類似した食品に塗って食べられることもある。

マーマイトを使った料理も複数開発されている。例としてスープの素としての使用法があるが、この場合はマーマイト独自の料理というよりも牛肉エキスを原料とするボブリル (Bovrilの代用品としてベジタリアン向けのスープに使われると見なす方が正確だろう。他にもレシピは多く、今日ではマーマイト料理のみを扱った料理本も出版されている。

ニュージーランドでは、マーマイトをパンに薄く塗り、パケットポテトチップを乗せた「マーマイトとクリスプサンドウィッチ」にすることがある。

スリランカでは、マーマイトを湯で溶かし、若干のライムジュースと、油で炒めた薄切り玉ねぎを加える。二日酔いから回復するための素晴らしい気付け薬になるのだという。

マレーシアでは、炒めた豚のスペアリブマリネードにする漬け汁として中国料理レストランでマーマイトが用いられる。炒めるときに、マーマイトベースのマリネード汁が熱でカラメル化して、甘辛い照り出しソースになる。








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