マン島 軍事・治安

マン島

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/14 16:30 UTC 版)

軍事・治安

1938年に成立したマンクス連隊英語版が第二次世界大戦後に解散して以降固有の軍隊は保持していないが、マン島保安隊英語版と呼ばれる治安維持部隊が存在する。

経済

通貨はマンクス・ポンド。マンクス銀行により独自の通貨が発行されている。為替レートはイギリスのスターリング・ポンドと同じである。イングランド銀行スコットランド銀行などで発行されたイギリスポンドも国内で問題なく通用するが、マンクス・ポンドはマン島のみで通用し、マン島以外は外貨両替の扱いが無い。

観光・産業

マン島TTレース

マン島の主要産業は伝統的な農業と観光である[22]。マン島はイギリス本土、アイルランド、チャンネル諸島と共通旅行領域を形成しており、この領域内での旅行では入国審査が免除される[21]

島の公道を使って一周60キロメートル (km) を走るオートバイレースであるマン島TTレースは、世界でもっとも歴史の長いオートバイレースである。

タックス・ヘイヴンとしても有名で、保険業でない企業が子会社として設立する自社専用の保険引受業者であるキャプティブ保険会社が数多く設置されている。2010年に英国のシンクタンクが、世界第32位の金融センターと評価した[23]2017年11月にパラダイス文書を元にして、租税回避目的でアップルなど国際的巨大企業や有名人らが税逃れを続けていた事実が報じられた[24]

British passport (Isle of Man)

住民

マン島の住民はイギリスの市民権を有しており、マン島独自の市民権は存在しない[12]。マン島の住民には、連合王国(UK)パスポートか、イギリス本土と異なる旅券のマンクス・パスポートが発行されている。ダグラスのマン島旅券事務所では、正式にマンクス・パスポート発行を担当するマン島副総督宛の旅券申請書を提出する[25]

文化

マン島は道路の制限速度がないなどの制度が残存している。保存鉄道でも知られる。保存鉄道は、蒸気機関車、フェル式登山鉄道、狭軌の電車の3系統がある。

言語

マン島語と英語で書かれた看板

住民は主に英語で会話し、公用語としている。土着の言語はケルト語派のゴイデル語系に属するマン島語があり、現在はこちらも公式言語として認められている。英語の方言はマン島英語英語版と呼ばれ、固有独特な単語や表現も多いが、使用減少の一途をたどっているという。方言にはマン島語の借用語が多いが、北欧ノルド語由来の語も幾つか見られる[26]

1974年末、マン島語を母語とする最後の話者が死亡したが、1970年代以降に言語復権運動が興隆し、現在はマン島語識者を自称する者が約1700名いる。住民はイギリスから独立の意識が高いことから英語に次ぐ公用語として位置づけられ、国民はマン島語による教育の機会も与えられている。2005年にマン島語のみを教授言語とする初等教育の学校が設立された。

国家象徴の象形

マン島のシンボルの三脚巴(旗画像参照)は対称性があり、数学の群論の説明に用いられることが多い。

食文化

国を代表する伝統料理は「スパッズ・アンド・ヘリン」(Spuds and Herrin) で、茹でジャガイモと燻製ニシンの開きであるキッパーを合わせる。昔から農作や漁労に従事する島民が常食の糧とした。

近年は「チップス・チーズ・アンド・グレイヴィー」が街中で多く見られ、国民的料理の様相である。これはプーティーヌに似た一品で、拍子切りにした太めのフライドポテトチップスに、チェダーチーズの粗びきをまぶし、濃厚なグレイビーソースをかけて完成する[27]

地元の食生活では、従来、魚介類を多く摂取してきた。近頃は商業漁業の漁獲量もめっきり減っており、西岸のピールの町の燻製工房ではニシンをマン島風のキッパーに加工しているが、原料は北海ものが多くなっている[28]スモークサーモンベーコンも加工される。

カニ、オマール海老ホタテガイを対象に操業している。特にクイーンホタテ英語版はマンクス・クイーニー (Queenies) の愛称で知られ、淡白で甘みのある味わいで喜ばれる[29]。マダラ、タラ科クロジマナガダラ、サバなど海岸でも釣果のある魚が地元の食卓に上る[30]。地元の河川や湖で捕れるサケ・マス類はCornaaに所在する国営の孵化場が支援している。

牧牛、牧羊、養豚、養鶏がおこなわれ、丘陵地のマン島産ラム肉は、人気である。マン島特産のラクタン品種の羊は、味わいぶかい濃赤味の肉質で、料理人のあいだで定評があり[31][32]原産地名称保護制度 (PDO) 認可取得な食材である[33]

マン島産のチーズには、オーク材のチップの燻製品や、ハーブで香りづけした商品があり、イギリスの食品店にも入荷されるようになっている[34]。ロンドン主催の2011年度ワールドチーズアワード大会において、某社のマン島産チェダーはシュレッドチーズ部門で銀賞を獲得した[35]

地ビールは1850年創業のオケルズ醸造英語版 (Okells ) や、ブッシーズ醸造英語版 (Bushy's Brewery) などがある。マン島で1874年以来施行されているビール純粋法 (beer purity law) は、ドイツビール純粋令と目的を同じくした法令である[36]

特有の動物

マン島のラクタン羊は、食肉用に放牧飼育されている。

マン島を代表する特有の動物には、マンクス種の猫とラクタンシープという品種の羊がいる。

マンクス猫

マンクス種の家猫は、尾が極端に短い変異をもつ血統の品種である。数センチほどの短い尾の個体をスタンピー ("stumpy")、まったく尾の外見を欠いたものをランピー ("rumpy") と称する。毛並みは様々であるが、後肢がやや長め。貨幣や郵便切手などにも図柄が使われる国の象徴的な動物である。しかし、1930年代より米国での関心と需要が高まり、島内での品種の存続を危惧したマン島政府は一時期、国費でこの猫のブリーダー事業所を運営させていた[37][38][39]

ラクタン羊

「マン島ラクタンシープ」はマン島で家畜化されたの純血種をさす。濃い褐色の羊毛をした頭角本数が多い品種で、牡羊では2、3、4本から5~6本の角を生やすこともある[40]。その名の由来であるラクタン(マン島語: loaghtyn, lugh-dhoan)は毛並みの色合いをさす言葉だが、これはlugh「マウス」+"dhoan"「褐色」の合成語で、英語に同義語はないと言われる[41]。短尾の品種に珍しく、採れる羊毛は柔らかく良質とされる[40]。肉は美味でグルメ食材として珍重され、ある程度成熟したものがラムではないが若い羊であるホゲットやマトンとして出荷されている[42]

スポーツ

クリケットサッカーが盛んである。クリケットは19世紀からプレーされている[43]。マン島クリケットクラブは、スポーツの関心を高め、既存のクラブを支援するために1930年に設立された。2004年に国際クリケット評議会に加盟した[43]

カマグ

カマグ英語版マン島語: cammag; 発音: [kʰamaɡ][44])は、スコットランドでいうシンティ英語版アイルランドハーリングと同種同源の[45]マン島のスポーツで、フィールドホッケーを簡略したようなステックをもちいるチーム球技である[45]。かつてはマン島の国技であったが、その後サッカーにとって変わられている[45]。一度は廃れたが21世紀に再興をみせており、4人 - 200人の人数でゲームに参加する[46]。使用する尖端がフック状に曲がったステックをカマグといい、これは「小さな曲がったもの」の意とされる[47]


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  2. ^ Isle of Man”. Worldstatemen.org. 2021年10月13日閲覧。
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  4. ^ a b c Ballaugh Curragh | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2006年9月6日). 2023年3月19日閲覧。
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  6. ^ 弥久保宏 2011, pp. 320.
  7. ^ Bradley, Richard (2007). The prehistory of Britain and Ireland. Cambridge University Press. p. 8. ISBN 0-521-84811-3 
  8. ^ Manx Museum Mesolithic collections”. 2012年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月7日閲覧。
  9. ^ Manx Museum Bronze Age collections
  10. ^ Manx Museum Celtic Farmers (Iron Age) collections
  11. ^ 弥久保宏 2011, pp. 318.
  12. ^ a b 弥久保宏 2011, pp. 309.
  13. ^ Finance Act 1958, Finance Act 1962, Police (Isle of Man) Act 1962, Governor's Financial and Judicial Functions (Transfer) Act 1976: Statutes of the Isle of Man
  14. ^ Constitution (Executive Council) (Amendment) Act 1980
  15. ^ Constitution (Executive Council) Act 1984
  16. ^ Constitution (Executive Council) (Amendment) Act 1986
  17. ^ Council of Ministers Act 1990
  18. ^ Ronaldsway 1981–2010 averages”. Station, District and Regional Averages 1981–2010. Met Office. 2013年2月5日閲覧。
  19. ^ Météo climat stats Isle of Man records”. Météo Climat. 2017年3月31日閲覧。
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  21. ^ a b 弥久保宏 2011, pp. 319.
  22. ^ a b 弥久保宏 2011, pp. 321.
  23. ^ The Global Financial Centres Index8
  24. ^ 懲りないアップル「パラダイス文書」で新たな税逃れスキーム発覚
  25. ^ Isle of Man Government – Immigration and Nationality legislation”. gov.im. Government of the Isle of Man. 2022年3月15日閲覧。
  26. ^ 英語版 Manx English (19:42, 23 November 2011) などを参考
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  28. ^ American Motorcyclist Assoc (November 1971). American Motorcyclist. American Motorcyclist Assoc. p. 22. ISSN 02779358. https://books.google.co.jp/books?id=ffYDAAAAMBAJ&pg=PA22&redir_esc=y&hl=ja 2011年9月12日閲覧。 
  29. ^ Evans, Ann (2009年). “Scallops the main ingredient of unique gathering for foodies; SUN, sea, sand and shellfish”. Coventry Newspapers. 2011年9月12日閲覧。
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  34. ^ Bumber Sales for Manx Cheese”. iomtoday.co.im (2003年10月15日). 2011年9月12日閲覧。
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  36. ^ Purely Isle of Man Archived 2010年8月3日, at the Wayback Machine.
  37. ^ Pollard, Michael (2003) (snippert), The Encyclopedia of the cat, Barnes & Noble Books, https://books.google.co.jp/books?id=pYIRserdavAC 
  38. ^ Origin of Manx cat breed, http://www.karellomanx.com/origin.html , p.269, "American cat fanciers (took interest) in the 1930s, and the demand for breeding stock was so high that the Isle of Man Government, (fearing) the breed's future on its native island.. (established) a government- funded breeding (program).. "
  39. ^ Origin of Manx cat breed”. March-2012閲覧。"(前略)..However, the Manx government closed the cattery in the mid 1980's,"
  40. ^ a b Lydekker, Richard (google), The sheep and its cousins, https://books.google.co.jp/books?id=3rMrAAAAYAAJ&pg=PA59 , "one of the most mouflon-like, of these short-tailed domesticated sheep.. native of Soa.. belong to a group of .. sub-breeeds.. collectively designated loaghtan, or lughdoan sheep. Properly speaking this term, which (in) Manx.. means mouse coloured..belongs only to the small brown sheep of the Isle of Man..but.. convenient.. to apply collectively. All these sheep..display a marked tendency to develp extra horns,.. in the rams varying from two, three, or four, to as many as five or six.
  41. ^ Cregeen 1835, p.110
  42. ^ 英語版 Manx Loaghtan (19:25, 15 January 2012)
  43. ^ a b Isle of Man Cricket Association 国際クリケット評議会 2023年9月29日閲覧。
  44. ^ Moore & Morrison 1924, under C, "CAMMAG [kamag] (Mx.), a hooked stick, a crutch, a hockey-stick; the game of hockey."
  45. ^ a b c Gill 1924, Manx Dialect, "Cammag, shinty -- a simpler form of hockey. Formerly the Manx national game, but now superseded by football..Hurley.. (is) the term() peculiar to Ireland, where.. the native name caman has..been revived"
  46. ^ 英語版 Cammag (18:55, 26 December 2011)
  47. ^ Gill 1924, "cammag '-literally, ' little curved thing.'"





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