シュメール 技術

シュメール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/21 23:35 UTC 版)

技術

シュメール人は、のこぎりのみハンマー(つち)・留め金・刃・・留針・宝石の指輪・ナイフにかわ・短剣・水袋・バッグ・馬具・ボート・甲冑・矢筒・さや・ブーツ・サンダル・もりなどを製造する技術を持っていた。

軍事

ウルのスタンダードに描かれたチャリオット(戦車)

城壁は、シュメールの都市を防御した。シュメール人は、彼らの都市間の包囲戦に従事した。日干しれんがの壁は、れんがを引きずり出す時間的余裕のある敵を防ぎきれなかった。

シュメール人の軍隊は、ほとんどが歩兵で構成されていた。そのうち軽装歩兵は、戦斧・短剣・を運搬した。正規の歩兵は、さらに銅製のフェルト製の外套・革製のキルトなどを着用した。シュメールの軍隊は、古代ギリシア同様の重装歩兵を主力とし、都市防衛に適したファランクスを編成していたことで知られる。シュメール軍は投石器や単純なを使用した(後世に、人類は合成の弓を発明する)。

シュメール人は戦車を発明し、オナガー(ロバの一種)を牽引に利用した。初期の戦車は後世の物に比べて、戦闘時においてあまり有効に機能せず、搭乗員は戦斧や槍を運び、戦車はおもに輸送手段として役立ったとされる。戦車は、2人の搭乗員が乗り込んだ四の装置で、4頭のオナガーを牽引に利用していた。台車は、一つの織られた籠と頑丈な三片設計の車輪から構成されていた。

建築

シュメール人は、控え壁(補強壁の一種)・イーワーン・半円柱・粘土釘などを用いた。チグリス・ユーフラテス両河の平原には鉱物や樹木が不足していたため、シュメール人は平らまたは凸の日干しれんがで建物を作ったが、それらはモルタルあるいはセメントで固定されてはいなかった。平凸のれんがは(丸みを帯びて)多少不安定で、シュメール人のれんが工は、れんがの列を残りの列に対して垂直に置き、その隙間を瀝青・穀物の茎・沼地のアシ・雑草などで埋めたと推測されている。また、さまざまな色の粘土釘を組み合わせて壁に差し込み、世界初のモザイク壁を作ったとされている。

交通

シュメール人のボートの型は次の3つである。

  • 革製のボートは、アシや動物の皮膚から成っていた。
  • 帆掛け舟は、瀝青で防水をした特徴がある。
  • 木製オールのついた船は、時には近くの岸を歩く人や動物によって上流に引かれた。

医術

下剤利尿剤は、シュメール人の薬の大多数を占めた。

シュメール人は、尿酸化カルシウムから硝石を生産した。彼らは、ミルクヘビの皮カメの甲羅・カシア桂皮ギンバイカタイムヤナギイチジク洋ナシモミナツメヤシなどを組み合わせた。彼らは、これらとワインを混ぜ合わせて、その生成物を軟膏として塗った。あるいはビールと混ぜ合わせて、口から服用した。

シュメール人は、病気を魔物の征服とし、体内に罠を仕掛けられるようになると説明した。薬は、身体内に継続的に住むことが不快であることを、魔物に納得させることを目標とした。彼らはしばしば病人のそばに子羊を置き、そこに魔物を誘い込んで屠殺することを期待した。利用可能な子羊でうまくいかなかったときは、彫像を使ったかもしれない。万一、魔物が彫像へ入り込めば、彼らは像を瀝青で覆うこともした。


注釈

  1. ^ 小林登志子によれば、この話は三笠宮崇仁親王が中山与茂九郎から直接聞いたという[8]
  2. ^ ある集落を何を持って「都市」と定義できるかについては様々な見解が存在する。常木 1997では政治的・軍事的機能、経済的機能、宗教的機能という3つのサービスが古代都市の最も基本的な機能と言えるとし、これらに対応する施設が出そろうのがウルク期の後半であるとしている[21]
  3. ^ 前川和也のはウルクの面積を250ヘクタール、うち230ヘクタールを生活空間として、現代の中東都市の人口密度を参考に、当時のウルクの人口を23,000人から46,000人と見積もっている[22]
  4. ^ 古代メソポタミア史を研究する前田徹は、このような都市国家を中近世のドイツ史における領邦国家(Territorialstaat)の概念を参考に領邦都市国家と命名している[32]
  5. ^ シュメールの古代都市では多くの場合洪水の痕跡が残されてはいるが、これらの洪水層とこの洪水伝説を直接結びつけるのは空想的に過ぎ、学術的な見解とはみなされない[37]。シュメール地方は洪水多発地帯であり、洪水災害が繰り返された経験が大洪水という歴史の認識に影響を与えていたかもしれない[38]
  6. ^ 年名は古代メソポタミアにおける年の数え方の一種であり、ある年に王の業績に基づいた名前を割り当てる方式である[42]
  7. ^ ルガルザゲシはウンマの支配者ウウの息子であり、元はウンマ王であった。ウルクを支配下に置いた後、拠点をウルクに遷し、ウルク王、国土の王を名乗った[44]
  8. ^ ただし、前田徹はエンシャクシュアンナやルガルザゲシの支配について次のように述べる。「『国土の王』を名乗るエンシャクシュアンナやルガルザゲシであるが、その支配の実態は中央集権体制にはほど遠く、領域都市国家を直接支配することがない。上級支配権を認めさせた上で、領邦都市国家の存在を商人して連合体を形成するにとどまった[46]。」
  9. ^ かつてはアッカド帝国によるシュメール地方の征服をセム系民族アッカド人によるシュメール人の征服といった形で捉えることが多かったが、現代ではこうした民族対立的視点を古代メソポタミア社会に対して適用することは適当ではないと考えられるようになっている[48][3]
  10. ^ 「世界の王」とも訳される。渡辺 2003ではこちらが採用されている。
  11. ^ 「四方領域の王」とも訳される。渡辺 2003ではこちらが採用されている。

出典

  1. ^ [1]
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  124. ^ 前田徹、川崎康司、山田雅道、小野哲、山田重郎、鵜木元尋『歴史の現在 古代オリエント』山川出版社、2000年。ISBN 978-4-634-64600-1  6ページ





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