アシダカグモ アシダカグモの概要

アシダカグモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/20 13:54 UTC 版)

アシダカグモ
アシダカグモ(雄成虫)
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱(蛛形綱) Arachnida
: クモ目 Araneae
: アシダカグモ科 Sparassidae
: アシダカグモ属 Heteropoda
: アシダカグモ
H. venatoria
学名
Heteropoda venatoria
(Linnaeus1767)[1]
和名
アシダカグモ
英名
Brown huntsman spider
Banana spider[2]
Giant crab spider[2]
Huntsman spider[2]

徘徊性で、を張らずにゴキブリなどの獲物を待ち伏せ、目の前に来た獲物を捕食する。日本に生息する徘徊性のクモとしては最大種で[注 2][7][2]、人家に棲息する大型のクモとしてよく知られている。

家屋内では不快害虫とされる一方[8]、ゴキブリなど家の中の衛生害虫を食べる益虫でもある[9]

特徴

体長はメスで20 - 30 mmオスでは10 - 25 mmで[7][10]、左右の歩脚を伸ばすと約100 mm(10 cm[2]ないし15 cm程度になる[11]。オスはメスより少し体が小さく、やや細身で、それに触肢の先がふくらんでいる。

全体にやや扁平で、長い歩脚を左右に大きく広げる。歩脚の配置はいわゆる横行性で、前三脚が前を向き、最後の一脚もあまり後ろを向いていない。歩脚の長さにはそれほど差がない。体色は幼体は成体に比べて色の薄い茶褐色をしており雌雄の差はないが、亜成体になると雌雄の差がはっきりしてくる。メスは灰褐色で、多少まだらの模様があるが、雄は全体に白っぽく頭胸部の後半部分にドクロ模様のような黒っぽい斑紋がある。また、雌雄共に頭胸部の前縁、眼列の前に白い帯があり、類縁種であるコアシダカグモとはこの帯の有無で判別できる。

分布

原産地はインドと考えられるが、全世界の熱帯・亜熱帯・温帯に広く分布している[12]

アシダカグモは外来種で、元来は日本には生息していなかったが、1878年に長崎県で初めて報告された[12]。移入した原因としては、輸入品に紛れ込んでいた可能性が考えられる。日本には福島県以南の本州四国九州南西諸島に生息し、冬季に着雪のある北海道東北石川県以北で確認された例はないとされるが、局地的に生息している場合がある。主要な餌動物となっているゴキブリの勢力を追いかける形で、交通機関などでの人為分布が進んでいると考えられるほか、気温条件や子グモの空中分散も分布拡大に影響していると思われる[12]。ただし、よく似たコアシダカグモ類との誤同定も報告されている[13]


注釈

  1. ^ 熊野地方三重県および和歌山県)や四国徳島県高知県)、宮崎県、沖縄県(国頭郡西表島)などでこう呼ばれている[4]北海道ではオニグモを「イエグモ」と呼ぶ[5]
  2. ^ 本種に匹敵する大型の徘徊性のクモとしてはオオハシリグモ南西諸島固有)がいる。
  3. ^ 建物(民家神社仏閣納屋など)のほか、野外(雑木林竹林社寺林など)に生息する[10]
  4. ^ 壁や塀の隙間、柱の割れ目など[14]
  5. ^ ゴキブリの死骸の一部(など)が落ちている場合、それは本種の食べ残しとされる[11]
  6. ^ クモバチ科 Pompilidae はかつてベッコウバチ科と呼ばれていた[15]
  7. ^ 子グモが孵化するまで餌を食べず、卵嚢を持ち歩く。
  8. ^ 基本的に臆病で、人間が近寄ると素早く逃げようとする傾向が強く、近くの壁を叩くなどの振動にも敏感に反応する。ただし、素手で掴み上げるなどすると、防衛のため大きな牙で噛みつかれる場合がある。
  9. ^ 一晩で20匹以上のゴキブリに噛みついたという観察記録もある[20]
  10. ^ 特に、卵嚢を抱えたメスは縁起が良いとされる[24]
  11. ^ 斎藤慎一郎 (2002) は、このように石垣島でアシダカグモが忌避される理由について「(アシダカグモが珍重される宮古島にはハブが生息しないのとは対照的に)石垣島には毒を持つサキシマハブヒメハブ毒蛇)が生息する。それらのヘビが餌として大型のアシダカグモを追って、家の中に侵入するのを防ぐため、『ヤクブ(アシダカグモ)を見つけたら殺せ』という伝承が成立したのではないだろうか」と指摘している[26]

出典

  1. ^ Heteropoda venatoria in World Spider Catalog”. 2016年7月15日閲覧。
  2. ^ a b c d e アシダカグモ. コトバンクより2020年10月24日閲覧
  3. ^ "足高蜘蛛". デジタル大辞泉. コトバンクより2020年10月24日閲覧
  4. ^ a b 斎藤慎一郎 2002, p. 161.
  5. ^ 斎藤慎一郎 2002, p. 157.
  6. ^ a b 斎藤慎一郎 2002, p. 162.
  7. ^ a b c 八木沼健夫 1986, p. 199.
  8. ^ a b 安富和男 & 梅谷献二 1995, p. 255.
  9. ^ 安富和男 & 梅谷献二 1995, p. 211,255.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m 小野展嗣 & 緒方清人 2018, p. 551.
  11. ^ a b c d e 新修豊田市史編さん専門委員会 編「第3章 豊田市における生物多様性 > 第4節 糸の使い手 蜘蛛類 > コラム3-4-2 嫌われ者のアシダカグモ」『新修豊田市史 別編 自然』愛知県豊田市、2018年3月31日、437頁。 
  12. ^ a b c 大利昌久「わが国におけるアシダカグモの地理的分布」『衞生動物』第26巻第4号、日本衛生動物学会、1975年12月15日、255-256頁、NAID 110003815149 
  13. ^ 徳本洋「アシダカグモ分布記録へのコアシダカグモ属の種の誤入」(PDF)『キシダイア(Kishidaia)』第86巻、東京蜘蛛談話会、2004年、1-9頁、2020年5月26日閲覧 
  14. ^ a b c 新海栄一 2017, p. 303.
  15. ^ 吉田浩史、八木剛(著)、きべりはむし編集委員会(編)「神戸市の注目すべき双翅目および膜翅目の記録」(PDF)『きべりはむし』第38巻第2号、兵庫昆虫同好会・NPO法人こどもとむしの会、2016年3月25日、22頁、2021年3月24日閲覧  - 「NPO法人こどもとむしの会」は、佐用町昆虫館(兵庫県佐用郡佐用町)を運営している法人である。
  16. ^ スギハラクモバチ”. 京都府レッドデータブック2015. 京都府 (2015年). 2021年3月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月24日閲覧。
  17. ^ 岡島秀治 編『昆虫』学研プラス学研の図鑑LIVE ポケット〉、2017年2月23日、130頁。ISBN 978-4059155041 
  18. ^ 中村孝「山口市で撮影した狩蜂類」(PDF)『山口県の自然』第74巻、山口県立山口博物館 日本山口県山口市、2014年3月、58頁、2021年3月24日閲覧 
  19. ^ a b 小野展嗣 & 緒方清人 2018, p. 646.
  20. ^ a b 八木沼健夫 1969, p. 26.
  21. ^ 八木沼健夫 1969, pp. 26–27.
  22. ^ 大利昌久「衛生害虫の天敵としてのクモ類 : 1. 長崎県の家屋内に棲むクモ類の観察」『衛生動物』第25巻第2号、日本衛生動物学会、1974年9月15日、153-160頁、doi:10.7601/mez.25.153ISSN 1883-6631 
  23. ^ a b c 安富和男 & 梅谷献二 1995, p. 211.
  24. ^ a b c 斎藤慎一郎 2002, p. 160.
  25. ^ 斎藤慎一郎 2002, pp. 122–123.
  26. ^ a b 斎藤慎一郎 2002, p. 121.
  27. ^ 史上最強のゴキブリハンターことアシダカグモさんを見かけたら怖がらずに「お疲れ様です!」と挨拶しよう”. ロケットニュース24 (2012年6月13日). 2021年7月16日閲覧。
  28. ^ 驚くべき殺傷能力を持つゴキブリの天敵「アシダカグモ」とは”. ライブドアニュース. 2021年7月16日閲覧。


「アシダカグモ」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アシダカグモ」の関連用語

アシダカグモのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アシダカグモのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアシダカグモ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS