2010 - 2017:パレスチナ側の手詰まりと米トランプ政権発足
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「パレスチナ問題」の記事における「2010 - 2017:パレスチナ側の手詰まりと米トランプ政権発足」の解説
2010年4月13日、イスラエル国防軍の命令1649 およびイスラエル国防軍命令1650(英語版) が発効した。1969年の命令329で布告した規制を拡大するもので、「不法入国者」の定義を単に滞在・在住許可証を携帯していない者から、「ユダヤ・サマリア」でイスラエル国防軍の在住・在留許可を受けていない者に拡大した。これにより、ガザ地区出身者の、ヨルダン川西岸への立ち入りが実質的に許可制となり、パレスチナ人住民のガザ地区への追放も法制化された。 アメリカ合衆国仲介の和平交渉が暗礁に乗り上げ、12月には南アメリカ諸国においてパレスチナの国家承認の動きが起こった。 2011年5月15日、ヨルダン川西岸、ガザ地区、レバノンのイスラエル国境付近、シリアのゴラン高原などで、イスラエルの占領に抗議する集会・デモが行われ、国境を越えた参加者をイスラエル軍が砲撃・発砲し、合計で12人が死亡した。 9月9日から10日にはエジプト革命で政権が崩壊したエジプトで今度はイスラエル大使館がデモ隊に襲撃される騒ぎがあった。 9月23日にはパレスチナが史上初めて国際連合への加盟申請を行ったが、国際連合安全保障理事会において米国が拒否権を行使するとみられている。加盟申請後、アッバース議長は「アラブの春」になぞらえ「パレスチナの春」として独立を求めると声明を発表した。2011年10月31日には国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の加盟国として承認された。 2012年11月29日、国際連合総会において参加資格をオブザーバー組織からオブザーバー国家に格上げする決議案が賛成多数で承認された。 11月30日、イスラエルは占領地の東エルサレムとヨルダン川西岸の入植地に計約3000棟の入植者住宅の建設を決定した。国連で、パレスチナをオブザーバー国家として承認されたことに対する報復としている。また、西岸の大規模入植地マーレアドミムと東エルサレムの間の「E1地区」などの建設計画手続き開始も盛り込まれた。「E1地区」は東エルサレムをヨルダン川西岸から完全に切り離し、またヨルダン川西岸の南北も事実上分断することになるため、「パレスチナ国家の樹立を困難にする」として米国が反対し、計画推進が見送られてきた経緯があった。 2014年4月23日、パレスチナのファタハとハマースは連立政権の組閣で合意した。ハマースをテロ組織とするイスラエルはこれに反発し、4月25日、和平交渉の中断を発表した。 6月12日、イスラエル人入植者である3人の少年が行方不明となった。イスラエル側はハマースの犯行と主張し、パレスチナ人約400人を逮捕、9-10人を殺害した。一方、ガザ地区から報復としてロケット弾などの攻撃があった。3人が遺体で発見されると、イスラエルは報復としてガザ地区を空襲した。7月2日には、パレスチナ人の少年が焼死体で発見され、ユダヤ人過激派6人がイスラエル側により逮捕された。7月8日、イスラエルは本格的なガザ侵攻を開始し、8月26日の一応の停戦までに、パレスチナ側2158人、イスラエル側73人の死者が出た。 「ガザ侵攻 (2014年)」も参照 12月25日、イスラエル最高裁はアモナ私設入植地(英語版)(約50家族)について、パレスチナ人地主の訴えを認め、政府に入植者の退去を行わせるよう命じる判決を下した。私設入植地は「開拓地_(イスラエル)(英語版)」(outpost=(辺境)開拓地、前哨基地)と呼ばれ、イスラエル政府公認では無いが、その暗黙の支持を得て占領地の各地に作られている。私設入植地に対する退去命令は過去にも判例があるが、政府はその多くの事例で、行政代執行を引き延ばしているという。 2014年の1年間では、パレスチナ側は2285人、イスラエル側は84人が紛争で殺害された。 2015年4月1日、パレスチナは国際刑事裁判所にオブザーバーとして加盟した。2014年のガザ侵攻などで、イスラエルを追及する方針である。イスラエルのネタニヤフ首相は繰り返し「加盟は容認できない」と批判。イスラエルは、同国が代行して徴収した税金をパレスチナ側に支払わずに凍結するなど、パレスチナ側への牽制を強めてきた。 6月30日、過激派組織「イスラム国」は、「ユダヤ人国家(イスラエル)」、ファタハ、ハマースに「宣戦布告」した。 2015年の1年間では、パレスチナ側は192人、イスラエル側は25人が紛争で殺害された。 2016年11月13日、イスラエルのネタニヤフ内閣は、私設入植地の合法化法案を閣議決定した。ネタニヤフ首相は反対したが、アイェレット・シャクド(英語版)司法大臣の主導で決定した。 12月19日、イスラエルは、アモナ私設入植地の指導者と、撤去後の代地を用意することで合意した。イスラエル(国際法上のパレスチナ領・シリア領・国際管理地)は、公認の120の入植地(国際的には認められていない)の他、イスラエル国内法でも公認されていない、100前後の私設入植地が存在し、政府の暗黙の支援を受けているという。 12月23日、国連安保理でイスラエルのパレスチナ占領地への入植活動を「法的な正当性がなく国際法に違反する」とし「東エルサレムを含む占領地でのすべての入植活動を迅速かつ完全に中止するよう求める」決議(国際連合安全保障理事会決議2334(英語版))が採択され、賛成14票、反対0票、棄権1票で可決された。同様の決議に対し、しばしば拒否権を行使していた米国は今回は棄権した。イスラエルのネタニヤフ首相は「この恥ずべき反イスラエル決議を拒否する」と非難し、「オバマ政権は、国連でのこの暴挙からイスラエルを守ることに失敗しただけでなく、裏では共謀していた」と米国を非難した。また、採決を要請したセネガル、ニュージーランドから大使を召還し、賛成国のうち、日本を含む12ヶ国の駐イスラエル大使を外務省に呼び抗議した。さらにセネガル外相のイスラエル訪問を拒否し、同国への援助を打ち切った。ネタニヤフ首相はまた、ダン・シャピロ米国大使を呼びつけて直接抗議した。イスラエルや在米ユダヤ人の間では、決議は国連の反イスラエル姿勢を示すものという主張が大勢を占めた。パレスチナのアッバース大統領の報道官は、安保理決議は「イスラエルの政策にとって大打撃」になると評価した。 12月28日、米国のケリー国務長官は、安保理決議2334で米国が拒否権を行使しなかった件について、「イスラエルを孤立させているのは、和平実現を危険にさらす入植活動だ」とイスラエルを非難した。米国の主要閣僚が、公然とイスラエルを酷評するのは極めて異例である。ネタニヤフ首相は、「イスラエルに対する偏見」であり、「パレスチナ側のユダヤ人国家への反対という問題の本質にほとんど言及していない」と反論した。 一方、同年のアメリカ大統領選挙で当選を決めたドナルド・トランプは、選挙中から親イスラエルを公約しており、採決阻止に向けて動いていた(当初は12月22日採決予定だったが、1日遅れで採決された)。可決後、Twitterで安保理決議を「イスラエルの大きな損失は、平和交渉を難しくする」 と批判し、「頑張れ、イスラエル! (自身の大統領就任日である)1月20日が近づいているぞ」とイスラエルを激励した。イスラエルもまた、公然とトランプ次期政権への期待を表明した。 2016年の1年間では、パレスチナ側は115人(うち、子供36人)、イスラエル側は12人(うち、子供1人)が紛争で殺害された。 2017年1月15日、フランス・パリで中東和平をめぐる国際会議が開催された。会議はフランス主催で、約70ヶ国が参加し、イスラエル・パレスチナ問題について、1967年以前の境界線に基づく二国家共存の支持を再確認した。イスラエル・パレスチナはともに不参加だったが、イスラエルのネタニヤフ首相は「無益だ」と非難する一方、パレスチナは会議の開催を支持した。 1月20日、トランプが正式にアメリカ合衆国大統領に就任した。トランプ政権は、従来の米国政権以上に親イスラエル政策を実行に移した。 1月22日、イスラエルのネタニヤフ首相は、占領地である東エルサレムでの住宅建設制限を撤廃すると表明し、566棟の建設を承認した。エルサレムのバルカト市長は、オバマ政権によって凍結の圧力を受けていたが、「イスラエルは今や新しい時代に入った」と声明を出した。パレスチナのアッバース大統領の報道官は、「イスラエルの建設承認を強く非難する」とロイターの取材に述べた。 1月24日、イスラエルは新たに約2400棟の入植地建設を承認した。PLOのサエブ・アリカット(英語版)事務局長はAFPの取材に対し、「国際社会はイスラエルの入植地拡大に対し何らかの措置を講じるべき」と主張した。日本の外務省は、東エルサレムでの入植拡大を含めて「強い遺憾の意」を表明した。 1月31日、イスラエルは新たに約3000棟の入植地建設を承認した。1月だけで、イスラエルが新たに承認した入植地は6000棟を超えた。 2月1日、イスラエル警察と、アモナ私設入植地からの退去を拒む入植者との衝突が起きた。 2月6日、イスラエルはクネセトで、私設入植地、約4000棟を公認する法案「ユダヤ・サマリア入植地規制法(英語版)」を可決した。ただし、先に違法判決が確定し、強制代執行が行われたアモナ私設入植地は対象にならない。また同法により、パレスチナ人私有地に、ユダヤ人は無断で入植地を建設することが合法化され、入植地建設を目的とした土地収用が可能になった。パレスチナ人地主には、地代の125%に相当する補償金か、イスラエル側の用意した代地のいずれかが補償される。ただし、ネタニヤフ首相は法案に消極的で、連立与党のイスラエル我が家主導で成立させたという。また、アビチャイ・マンデルブリット司法長官は、同法が基本法に反しているとの見解を示した。アントニオ・グテーレス国連事務総長は声明で、「同法案は国際法に違反しており、イスラエルには大規模な法的措置が講じられるだろう」と批判した。米国は、イスラエルの裁判所の判断を待つとして、コメントを避けた。 2月8日、イスラエルの人権団体「Adalah」と、パレスチナのNGO「エルサレム法律扶助と人権センター」は、私設入植地の公認はイスラエル基本法に反しているとして、イスラエル最高裁に提訴した。 2月15日、米国のトランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相とホワイトハウスで会談した。トランプは従来の二国家解決にこだわらず、「2国家と1国家のいずれも選択肢にある」と見解を示した。また、入植地については「少し控えて欲しい」と、これ以上の拡大に対する自制をネタニヤフに求めた。しかし2月16日、米国のニッキー・ヘイリー国連大使は「米国は二国家解決を絶対に支持している」と、トランプ大統領の見解を否定した。 3月30日、イスラエルはヨルダン川西岸・ラマッラーの北方に、新しいユダヤ人入植地の建設を承認した。ヨルダン川西岸で、新規の入植地建設は26年ぶりという。この入植地は、2月に強制退去が行われたアモナ私設入植地の代地となる。米国は直接の批判を避けたが、「入植地の存在自体が和平の障害になるわけではないが、これ以上の無制限な入植地建設は和平交渉を進める助けにはならない」と懸念を表明した。 5月1日、ハマースは「ユダヤ人殲滅」を掲げる「ハマース憲章」を事実上修正し、安保理決議242および「アラブ平和イニシアティブ」の枠内でのパレスチナ国家建国を認める新指針を明らかにした。ただし、イスラエルの国家承認は否定した。ハマース報道官のファウジ・バルフムは、「世界への我々のメッセージは、ハマスは過激でなく、現実的で開明的な運動だということ。我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」と述べた。一方、イスラエルのデイビッド・キーズ報道官は、ハマースが「世界をだまそうとしているが成功しない」「彼らはテロ目的のトンネルを掘り、数多くのミサイルをイスラエル市民に向けて打ち込んでいる。これが本当のハマスだ」と批判した。 11月下旬、『ニューヨーク・タイムズ』によると、パレスチナのアッバース大統領はひそかにサウジアラビアを訪問し、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子と密談した。アッバースが関係者に語ったところによると、ムハンマドは「米国政府が提示したどの和平案よりもイスラエル寄り」の和平案を提示したという。その内容は、「パレスチナの独立は承認するが、イスラエルの入植地の大部分は残る。東エルサレムはパレスチナに与えられない。パレスチナの首都として、東方に隣接するアブ・ディス(英語版)を提示する。またイスラエルに割譲する代地として、シナイ半島の一部をパレスチナに譲渡する。パレスチナ難民の帰還権は存在しない」というものだった。見返りに、サウジアラビアからの援助増額を提示したが、いずれもアッバースは拒否したという。ホワイトハウスとサウジアラビア政府は、共に記事内容を否定し、アッバース大統領のナビル・アブ・ルディーネ報道官も「フェイクニュース」と否定した。しかし、ハマースやファタハの関係者、レバノンや西欧の政府関係者の発言として、同様の「和平案」は確かに存在すると報じた。 12月6日、アメリカはエルサレムをイスラエルの首都であると承認した。国連安保理での米国非難決議は、米国の拒否権で否決された。パレスチナは米国の拒否権発動を受けて、国連総会開催を呼びかけた。 12月21日、国連総会の緊急特別会合は、エルサレムに外交使節(暗に大使館)を設置しないよう求める決議を、賛成128、反対9(イスラエル、アメリカ合衆国、グアテマラ、ホンジュラス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、ナウル、パラオ、トーゴ)、棄権35、欠席21で可決した。ただし、法的拘束力は無い。イスラエルのネタニヤフ首相は、国連を「うそ議会」と呼び、投票結果を拒否すると非難した。パレスチナの報道官は「パレスチナの勝利」と歓迎した。米トランプ政権は、「賛成国への経済援助を打ち切る」と圧力を掛け、日本にも水面下で反対か、少なくとも棄権するよう求める打診があった。日本は、米国を除く五大国全てが賛成に回る見込みであること、反対すれば従来の「二国家解決」支持と矛盾する恐れがあること、決議案が米国の名指しを避けたことなどを理由に賛成に回った。 2017年の1年間では、パレスチナ側は96人(うち、子供20人)、イスラエル側は17人(うち、子供0人)が紛争で殺害された。
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