昇天
『神仙伝』巻7「樊夫人」 劉網とその妻・樊夫人は、ともに仙術修行に励み、しばしば術くらべをしたが、いつも樊夫人が勝った。昇天する時も、劉網は大木によじ登って、ようやく飛び上がることができたが、樊夫人は平座したまま雲のごとく昇天していった。
『捜神記』巻1-27 済陰の人園客は終生独身で、5色の香草の種をまき、その実を食べていた。ある時、5色の蛾が来て蚕を生み、ついで神女が来て園客を助け養蚕の仕事をした。多くの糸を繰り終えた後、神女は園客とともに天上へ舞い上がり、行方知れずになった。
『日本霊異記』上-13 漆部造麿の妾は7人の子を産み育てたが、高雅な性質の女で、つつましく暮らしていた。ある時、彼女は春の野で仙草を食べ、天に飛んで行った〔*『今昔物語集』巻20-42に類話〕。
*登った松の木から手を離して、仙人になる→〔木登り〕5の『仙人』(芥川龍之介)。
*昇天に失敗して、谷底に落ちる→〔飛行〕1bの『十訓抄』第7-1。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之13之14第116~117回 雌狐が乳母政木に変身して、河鯉孝嗣を育てた。その後、政木狐は不忍池のほとりで茶店の老婆の姿になり、情死しようとする男女・困窮して投身しようとする者など、往来の人999人の命を助けた。千人目には、無実の罪で処刑される河鯉孝嗣を救った。こうした長年の陰徳により、政木狐は天帝の恩勅を受け、狐龍(こりゅう)となって昇天した。
*龍が昇天する→〔瞳〕1の『水衡記』・〔言霊〕5aの『龍』(芥川龍之介)・〔龍〕3aの『史記』「孝武本紀」第12・「封禅書」第6。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第7章 ヘラクレスはヒュドラ(水蛇)の毒で倒れ、火葬にされた。火葬壇が燃えている間に、雲がヘラクレスの身体の下に降りて来て、雷鳴とともに彼を天へ運び上げた。ヘラクレスは天界で不死を得た〔*『変身物語』(オヴィディウス)巻9では、ヘラクレスの身体のうち、母から受け継いだ部分は燃えるが、父ユピテルから受け継いだ部分は不滅であり、その不滅の部分が天に上げられた、と記す〕。
『椿説弓張月』残篇巻之5第67回 鎮西八郎為朝は琉球を平定し、ある日、八頭山(ややま)に登る。神仙が出迎えて、「汝はこの国にとどまるべからず。息子舜天丸(すてまる)を琉球王とせよ(*→〔転生〕1)」と告げる。折しも紫雲たなびき、為朝の弟為仲・妻白縫をはじめ27騎の勇士が現れ、為朝は雲の上に引き上げられて昇天する〔*後に讃岐国白峰山陵で、切腹した為朝の身体が見出され、その死骸は消え失せた〕。
『百年の孤独』(ガルシア=マルケス) ブエンディーア家の美貌の娘レメディオスは、彼女を得ようとする何人もの男たちに死の運命をもたらした。ある日の午後、庭にいたレメディオスは宙に浮き上がり、そのまま空の彼方に消えた。
『列王記』下・第2章 預言者エリヤと後継者エリシャが話し合いつつ歩いていた時、火の戦車が火の馬に引かれて現れ、2人の間を隔てた。エリヤは嵐の中を天に昇って行った。エリシャは「我が父よ・・・・」と叫んだが、もうエリヤの姿は見えなかった。
*妻が夫を救い、ともに昇天する→〔身投げ〕4の『さまよえるオランダ人』(ワーグナー)第3幕。
『Kの昇天』(梶井基次郎) 満月の夜。病身のKが砂浜に映る自分の影を見つめると、影の中に自分の姿があらわれてくる。それにつれてKは段々気持ちがはるかになり、魂が月に向かって昇天してゆく。魂の抜けたKの身体は、1歩1歩海へ歩み入る。その時、身体に感覚がよみがえれば魂は身体に還ったのだが、そうはならなかった。Kは溺死体として発見され、魂は月へ飛翔し去った。
*蟹が、砂浜に映る自分の月影におびえる→〔尼〕3の『陰火(尼)』(太宰治)。
*かぐや姫は、魂だけでなく、身体ごと月世界へ昇天する→〔八月十五夜〕8bの『竹取物語』。
『神曲』(ダンテ)「天国篇」第1~21歌 「私(ダンテ)」は地獄・煉獄を巡った後に、煉獄山頂に登って地上の楽園でベアトリーチェに出会う。ベアトリーチェに導かれて「私」は肉体を有したまま昇天し、月天・水星天・金星天・太陽天・火星天・木星天・土星天を訪れる。それぞれの天に住む死者の魂たちから、「私」は教えを受ける。「私」はさらに、聖者・天使・神の居場所である恒星天・原動天・至高天まで昇る〔*「私」は地上に帰還した後、この経験を『神曲』として記録する〕。
品詞の分類
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